みなさんは、パワハラやいじめが最も多い業界がどこかご存知だろうか。東京都の労働相談の統計を見ると、2012~2020年度まで9年連続で「医療・福祉」が独走状態となっている(「サービス業〈他に分類されないもの〉」の方が多いが、雑多な業種をまとめた数字なので、ここでは除外する)。ここでいう「医療・福祉」とは、病院、保健所、保育、介護といった、いわゆる「ケア労働」である。
あらかじめ断っておくと、「医療・福祉」の就業者数はこの20年ほどで倍増し、いまや製造業や卸売・小売業の1000万人に比肩する900万人に達しようとしている。日本の全労働者のうち、7人に1人が医療・福祉業界で働いているのだ。しかし、母数が多いだけではなく、近年では製造業や卸売・小売業の2倍に及ぶいじめ相談が、医療・福祉業界から寄せられており、非常に高い割合と言える。
「医療・福祉業界が特殊なのでは?」という意見もあるだろう。だが、ケア業界におけるいじめは、日本全体に蔓延する職場いじめの縮図である。そこでこの記事では、筆者が労働相談を受けてきた経験に基づいて執筆した『大人のいじめ』(講談社現代新書)の内容に即しながら、岸田政権の掲げる「新しい資本主義」でも注目されるケア業界を題材として、日本社会を覆う「経営服従型いじめ」について論じていきたい。(全2回の1回目/後編を読む)
労働運動の代わりに、職場いじめが蔓延する日本社会
日本で起きている多くの職場いじめの背景には、過酷な労働環境がある。日本では、ここ20年にわたって、労働者を低賃金・長時間残業・過密労働で働かせる職場環境が蔓延するようになった。特にサービス業では労働集約型の職場が多く、技術革新による生産性向上は期待しづらい。利益を拡大するには、低コストで労働者を働かせ、業務量を増やすことが、経営者にとって安易だが確実な方法だ。
そこで、いつでも辞めさせられる非正規雇用を拡大させ、正社員すら長期的な戦力ではなく、数年で心身ともに力尽き、取り替えられる消耗品として扱う労務管理がはびこるようになってきた。日本社会は、労働者を使い潰す資本主義の道をひたすら歩んできたのである。