構成員数の変化は「山健組の離脱」
ポイントとなったのが、“武闘派”の呼び声高い山健組の存在である。
神戸山口組が大きく勢力を減退させた背景には、中核組織であった山健組が離脱したことが大きく影響したとみられる。さらに、神戸山口組内で豊富な資金力を持っていたとされる池田組が独立したことも要因とみられている。
前述のように暴排条例の影響もあり、近年、暴力団構成員数は全国的に激減している。 国内最大組織の6代目山口組も例外ではなく、ここのところは毎年のように300人前後の減少を続けていた。にもかかわらず昨年約200人もの増加が確認されたのは、神戸を離脱した山健組が400~500人の巨大勢力を率いて6代目山口組に復帰したことが理由だとみられている。
組織犯罪対策を担当する警察当局の幹部は、現在の状況をこう見る。
「6代目山口組側が優勢な状況は変わらない。だが、神戸山口組の組長の井上邦雄が引退するとか、組織を解散するということはないのではないだろうか。『最後の一人になってもやり抜く』などと周囲に言っていると伝えられている」
神戸には「意地でもやって行く」という若い衆も…
神戸山口組の事情に詳しい指定暴力団幹部も同様の見解だ。
「分裂して(6代目山口組を)出た際に、神戸山口組の組長に多くの若い衆は付いて行った。今でも『意地でもやって行く』という強い気持ちの若い衆も多いだろう。それなのに、形勢が不利になったからといって、親分が自分から『辞めます』とか、『引退します』とは言い出せないだろう――」
6代目と神戸は分裂以降、双方が対立する事務所への殴り込みや発砲、ダンプカーなどの大型車両をバックで突入させるなどの大規模抗争を繰り返してきた。
国内最大の繁華街である東京の新宿・歌舞伎町で、双方の組員らが集団で乱闘騒ぎを起こしたこともある。複数での乱闘は歌舞伎町だけでなく各地の繁華街でも発生してきた。
こうした事件だけでなく、本格的な殺人事件も多発した。
対立抗争状態が続く2019年11月には、兵庫県尼崎市の商店街で最も象徴的で残忍な殺人事件が発生した。6代目山口組系竹中組の元組員が神戸山口組幹部の古川恵一に向けて自動小銃を乱射して殺害したのだ。この事件は、被害者に対し数十発の銃弾を浴びせるといった凄惨さだった。
事件発生当時、警察庁で組織犯罪対策を担当していた複数の幹部は、「この事件が発生したことで対立抗争は、6代目山口組側の優勢へと、大きく潮目が変わることとなった」と指摘していた。