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「この人、『おしん』よりもかわいそうなの?」現実の“貧しさ”を認めたがらない人たち

2022/01/31

genre : ニュース, 社会

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 要するに「働かない」「国に貢献していない人間が」、無償で温かく、栄養満点のハンバーグやとんかつ弁当を口にして満腹になり、「努力もせず」「のうのうと生きている」のが死ぬほど気にくわないのだろう。こうした食糧支援のほとんどは民間の団体によるものであり、寄付金などが財源となるため、別に彼ら彼女らに良い食事が提供されようがされまいが我々の財布を圧迫するものでもないし、何か迷惑がかかるわけでもない。

 生活に困窮している人たちのほとんどは好きで働かずに生きているわけでもなければ、職を選んだせいでホームレスになったわけでもない。何らかの事情があって就職できないか、そもそも働ける状態ではないのだ。

 批判者たちが本当にホームレスの人たちを「国に貢献させたい」と思っているのであれば、豪華な弁当を叩くのはお門違いも良いところであり、ホームレスになるほど困窮してしまう前に頼れるはずだった生活保護制度や生活再建相談窓口などの存在の周知など、既存のセーフティネットが当事者に届けられていない現状(行政の窓口で生活保護を申請させず、違法に相談者を追い返す「水際作戦」が横行している現状も含む)について議論すべきだろう。ホームレス本人を叩いても意味がないことなど、誰の目にも明らかなはずだ。

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©iStock.com

 本当は、国に貢献しているかどうかなんて、ただのこじつけではないだろうか。自分は毎日ストレスを溜めながらあくせく働いて、税金を払って自腹で衣食住を賄わなければならないのに。本当は、それが本音なんじゃないだろうか。

自分でさえも、自分の苦しみに気が付いてあげられない

 みんながんばっているから、弱音を吐いてはいけない。子供の頃から「人に迷惑をかけずに生きなさい」と教わってきた。本当に困ったとき、助けを求める方法を誰からも教えてもらえなかった。困窮していることを誰にも言えない。言えば、一体周囲からどんな目が自分に向けられるかわかっているから。

 不健全な社会では「自分が今苦しんでいる」という「状態」そのものですら、誰からも肯定も、承認もされない。だから自分でさえも、自分の苦しみに気が付いてあげられない。皆が自分自身に「甘えるな」と鞭を打ちながら、毎日を生きることに必死だ。

INFORMATION

【全国の自立相談支援機関】
https://www.mhlw.go.jp/content/000614516.pdf

お金、仕事、住宅など生活に関する困りごとを相談できる公的な窓口一覧です。お悩みの場合はひとりで抱え込まず、お近くの窓口にぜひお問い合わせを。

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