ようするに忙しさがそのまま活動の充実につながっているのだろう。それゆえ、ちょっと空いた時間もけっして逃さない。仕事先のスタジオで、弁当の入っていた段ボールを見て急に創作意欲が湧き、ADからテープなどを借りてアート作品をつくったこともあった。
この作品を見た美術家の横尾忠則は、《生活の素材を使って、作品の中に生活を取り込んでいる。なかなかできないですよ。普通のアーティストなら、生活と創造の一体化を図ろうと、まず頭で考えてしまうんだけど、香取さんは体が先に動いて、作ってしまってる。(中略)やっぱり香取さんが今まで体で表現をしてこられたことが、この絵にも表れているんでしょうね。体を動かしてないと、こういう作品は作れない》と、本人との対談で絶賛している(『芸術新潮』2018年3月号)。
身体表現はアイドルにはたしかに欠かせない要素だが、世の多くのアイドルのなかでもとくに香取は何事においても体が先に動くという印象が強い。
俳優としても、体格のよさもあって、画面に映っているだけで存在感を放つ。そこから意欲を搔き立てられるつくり手も多いのだろう、彼の出演作には冒険的ともいうべき作品が目立つ。
何をしでかすかわからない雰囲気
昨年12月に放送されたNHKのスペシャルドラマ『倫敦(ロンドン)ノ山本五十六』も、昭和の海軍軍人・山本五十六を香取が演じるという異色の取り合わせで、1934年の第二次ロンドン軍縮会議の予備交渉を描いた。香取扮する山本は、他国との交渉のなかで当然ながら理知的な部分を発揮する一方で、海軍の意向と自身の考えの相違から葛藤したり、かと思えば親友に対しては稚気をのぞかせたりと、さまざまな面を見せ、彼にしか演じられないものを感じさせた。
SMAP解散後の俳優としての出演作にはこのほか、白石和彌監督の映画『凪待ち』、三谷幸喜作・演出の舞台『日本の歴史』やAmazonプライムビデオの配信ドラマ『誰かが、見ている』などがある。昨年には『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』でSMAP解散後初めて民放の連続ドラマで主演を務めた。
近年の出演作を見ると、シリアスな作品でもコメディでも彼が演じる役はどこか謎めいていて、何をしでかすかわからない雰囲気がある。それだけに、その一挙手一投足に知らず知らず釘づけにさせられてしまう。