文春オンライン

元中国共産党エリートが語る「日本人の中国予測はなぜ間違えるのか」

すべては「鄧小平派の常識」にすぎなかった──顔伯鈞インタビュー(後篇)

2017/12/04

活動は「低調」である

――顔さん自身の亡命生活はいかがですか。

 街で天安門事件の紀念活動をおこなったり、劉暁波の釈放要求アピールを出したりはしましたが、今年に入ってからは活動が低調です。海外の民主活動家にはいろいろややこしいこともありまして……。皮肉なことに、活動が低調になると監視の目も緩みます。

顔伯鈞の隠れ家の壁に貼ってあった孫文の写真(筆者撮影)

――昨年のはじめごろから、別の亡命中国人に「顔伯鈞はスパイだ」と言われていましたもんね。正直、私も少しだけ疑っていたことがあるのですが、現状を拝見する限りそれはなさそうです。

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 あれは本当に困りました。やるせない気持ちです。

――バンコクの亡命中国人たちが直面している問題は何でしょうか?

 やはり中国から離れて時間が経つほど、距離感が遠くなっていくのが悩ましいところです。たとえば私の場合にしても、中国国内の銀行口座が封鎖されていることもありますが、最近中国で話題のスマホ決済(送金機能もある)はできませんし、シェア自転車ブームもわからない。

――中国社会は変化の速度が速すぎますし、わずか数ヶ月でも世の中がどんどん変わりますからね。

 次に中国国家安全部から中国人亡命者への圧力も大きなものがあります。亡命者は、農村から貧困層の陳情者などもともとお金がなかった人が多くを占めていますから、バンコクで生活に困窮した末に安全部に買収されてしまう人もいます。

 また、上記とも関連しますが、中国当局による離間策もあります。特に私のスパイ疑惑などについては、こうした工作がおこなわれた側面もあるのではないかと思っています。中国はタイの軍事政権との接近を強めていますから、バンコクの中国人亡命者の立場は非常に不安定です。

バンコクの中華街ヤワラート。この街の一角に中国人亡命者たちが隠れ住んでいる。(筆者撮影)

――初対面の2015年2月のときは亡命直後で、「タイに新公民運動の新たな拠点を作る」と意気込んでおられた。著書出版時点の2016年6月では「限界はあるが戦っていく」とのことでした。バンコク生活がもうすぐ2年目に入ろうとしている、現在はどうですか。

 現在の目標は「初心忘るべからず」ですね。表立った活動は手控えても、思いは持ち続けたい。でも、自分の生活設計もがんばりたい。経済的にもしっかりしなくてはなりません。

――ありがとうございました。

※前篇「潜伏中の亡命エリートに聞いた現代中国の『右』『左』事情」から続く。本記事に登場した顔伯鈞の驚天動地の逃亡記はこちら

「暗黒・中国」からの脱出 (文春新書)

顔 伯鈞(著) 安田 峰俊(編集・翻訳)

文藝春秋
2016年6月20日 発売

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