子どもたちから来る感想。10通に1通は光っています
――何か印象に残っている感想などおありですか?
加古 子どもさんですから、思っている事の10分の1も文章としては書けてない、と思うんだけど、その中でも、なかなか鋭い事を書いてくる子どもがいます。まぁ10通に1通は光っていますね。こちらが「いやぁまいったなぁ」と唸るほど感心させられるのがあって、嬉しい限りです。
僕の描く絵本は大体物語風なので、1冊につき大体15場面で全てを表現しなくちゃならない。登場人物の感情の変化を、一場面の限られた見開きの中で伝えなければならないわけです。漫画だったら幾つかのコマ割りでどんどん描いていけばいいんでしょうけど、絵本はそうはいかない。泣いたり怒ったり笑ったりという表現を、見開きのページの中でどのように表現するか。
子どもが絵本を見て一番最初に目を留めるのは、大体登場人物の顔だと、幼児心理学でも言われています。だから、まずは顔の表情で表現する。そして次が、「手」なんです。例えば、顔の方は笑っていても手はぎゅっと握っていて、登場人物の気持ちや決意を表す。時には画面全体の色合いをキラキラさせずに落ち着いた色合いで淋しさを表現する。そうすると、(感嘆したように)僕の意図を見抜く子がいるんですねぇ……。それで、こちらもやりがいがあるし、鋭い感性に驚いて嬉しくなるわけです。
子どもというのは、絵本の読み聞かせのときなんかも面白くない場合でも、聞けば「面白かった」でおしまい。だけど子どもが、「これは面白い!」と思ったら、すみずみまで見るものです。お母さんが絵本を読んでいても、「ちょっと待って、もういっぺん繰り返して!」と言って、前とは違う顔つきで画面を見る。それがいいんですよね。
――それは、セツルメント(大学を卒業し企業に就職後、仕事をしながら子どもたちのケアをする社会救護福祉のボランティア活動をしていた)時代に、「子どもはそういうもんだ」と思われたのですか?
加古 それは後になってから分かりましたけどね。セツルでは、こちらが意気込んで創作した紙芝居を披露するでしょう。そうすると、気に入らない作品だと思ったら、子どもたちはいなくなってしまうんです(笑)。川崎の工場で働く労働者の子ども――やんちゃで鼻たれの悪ガキだから、悪口を言ってくるかと思ったら、それは失礼だからと思うんでしょうね、だまって、すうっといなくなる。それで、ちゃんとまた戻ってくるから小憎らしい(笑)。というのは、「お前の下手な紙芝居よりもザリガニ釣りに行った方がよっぽど面白いんだ。その時間が勿体ないから行っちゃったんだ。それで十分遊んできたからまた戻ってきた」ということなんです。一言も言わないですけど、そういうことが分かります。
でも、紙芝居が面白ければおしまいまで居て、「もういっぺんやれ! この続きどうなるんだ?」と、積極的なことを言ってくる。山の手に住むようなお坊ちゃんおじょうさんだったら、絵を見て感じる子もいるとは思っていました。でも、工員さんの家の悪ガキどもは、どうせわぁわぁぎゃあぎゃあ騒いで絵なんか見ても分からないんじゃないかと思ったけど、それは違うんだなぁ……。かえってイナゴがどうやって飛ぶのかとか一生懸命見ているから、野性的で感性も鋭い。「これはちょっとただ口が開いているだけでつまんないや」とか「登場人物が口をウンと結んでいるのは、決意を表しているんだ」とか、ちゃんと見ている。だから、きちんと感情や内容を描いたものは、子どもに伝わるんです。それが分かって嬉しくなっちゃった(笑)。