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「日本では残業をするのがデフォですから」

 では、今後はどうでしょうか。多くの日本企業は「働き方改革」や「DX」「RPA」に本格的に取り組み始めたばかり。その成果が出始めれば、残業時間数は大きく減ると考えて良いのでしょうか。

 この期待に対して、複数の経営者が「少しは減るでしょうが、大きくは減らないでしょう。日本では残業をするのがデフォ(標準)ですから」(輸送機・ゼネコン・商社)と明確に否定しました。

「残業をするのがデフォ」とは、どういうことでしょうか。事業がずっと絶好調という企業も絶不調という企業もなく、繁閑の波があります。アメリカ企業は、多忙でも暇でもない標準期に合わせて要員計画を作り、計画通りに人員を配置します。繁忙期になったら従業員に残業させ、閑散期には従業員をレイオフあるいは解雇し、雇用量を調整します。アメリカでは「残業ゼロがデフォ」です。

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 一方、日本では、レイオフや解雇が厳しく制限されており、柔軟に雇用量を減らすことができません。そのため企業は、「これ以上は暇にならない」という閑散期に合わせて要員計画比マイナスで実配置します。たとえば、標準期に10人が必要な職場で、閑散期に必要な8人しか配置しないという具合です。

 この状態だと、標準期には人手が足りないので、8人が2人分の仕事を残業してこなします。繁忙期には人手不足が深刻化するので、8人が猛烈に深夜残業したり、非正規雇用を増やしたりします。これが日本では「残業をするのがデフォ」という意味です。

「もしDXで業務合理化が進んだら、要員数が減るので、その分、実配置を減らすことになります。会社全体の雇用量は減りますが、残業が減ることはないでしょうね」(ゼネコン)

 経団連は、政府に対し過去3度に渡って解雇規制の緩和を要望しています。解雇やレイオフが容易になり、企業が要員計画通りに実配置するようにならない限り、残業が大きく減ることはなさそうです。

従業員には「残業削減を求める」矛盾

 ところで、経営者や人事部門を対象にした今回の調査とは別に、一般従業員にも残業について聞いてみました。残業削減を進める経営者・人事部門に対する不信の声がたくさん寄せられました。

©iStock.com

「当社の経営者は、事業の仕組みや仕事のやり方を変えずに、『残業を減らせ、でも今まで以上の成果を出せ。やる気が肝心』と根性論で我々に要求しています。根性で何とかなるなら、昔の人の方が根性があるから、とっくに残業なんてなくなってるはずですよね」(IT)

「当社の賃金カーブでは20代と30代前半は異常な薄給で、既婚者の場合、残業代なしには生活が成り立ちません。組合に遠慮して40代以上の高賃金には手を付けず、若手の残業だけをやり玉に挙げる人事部門の姿勢は、ちょっと許せません」(部品)

 残業が減れば人件費が減り、たしかに会社の利益は増えます。ただ、それで経営者・人事部門と従業員の溝が広がってしまっては、逆効果ではないでしょうか。経営者・人事部門・一般従業員、そして規制を司る政府が一体になって、正しい働き方や残業のあり方を考え、変えていく必要がありそうです。