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《精子提供訴訟の意外な事実》「学歴至上主義、無責任、自業自得」と批判された原告女性が“経歴詐称を許せなかった知られざる真実”

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B氏から《タイミング法とシリンジ法のどちらが良いか》

A子さん《こんにちは。私には夫がいるのですが、事情により妊娠が難しく、精子ドナーを探しています。あなたは国立大学卒とのことですが、どこの大学ですか》

B氏《京都です》

A子さん《主人が東大卒で、同じような方を探していたので、京都大学出身とのことで嬉しく思います。主人は●●●だったのですが、あなたは何学部でしたか》

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B氏《経済学です》

A子さんとB氏のDMでのやりとり ※訴状内容を参考に作成 ©文藝春秋

 さらにB氏に妻や恋人がいないことも確認した。

 DMのやりとりが続く中、B氏は唐突に《精子提供の方法についてタイミング法とシリンジ法のどちらが良いか》と質問してきたという。

 ちなみに、タイミング法とは女性が排卵する時期に性交ないしはシリンジなどで膣内に精液をいれることを指すのだが、B氏は性交を伴う精子提供を「タイミング法」、性交なしでシリンジを使う方法を「シリンジ法」と表現している。

 A子さんはまだ条件を確認している段階だったので煩わしく感じたといい《まだ決まっていない》と返事すると、B氏は《僕もまだ1人しか経験していなくてよく分かっていません》などと返信した。

A子さんとB氏のDMでのやりとり ※訴状内容を参考に作成 ©文藝春秋

 夫以外との性交にA子さんは抵抗感があった。それに加え、A子さんはかねてより性交痛が強かった。性交を伴うタイミング法には恐怖心があり、B氏に対しても《タイミング法は無理かもしれない》などと数回念押ししたという。

 そうした話し合いを経て、A子さんはB氏と直接会おうと考えた。

指で氏名を隠して見せた大手保険会社の社員証

 2019年4月6日、2人は港区・赤坂で初めて顔を合わせた。そこでもB氏は「配偶者や交際相手はいない」と明言し、「幹部候補の総合職社員である」ともアピールしたという。A子さんが社員証を見せるよう頼むと、スーツのポケットから社員証を取り出し、名前の部分を指で隠して見せてきた。社員証は「日本生命保険相互会社」のものだった。

日本生命保険相互会社 ©文藝春秋

 指で隠していたため氏名を確認できなかったが、A子さんも名前を名乗っていなかった上、SNSを利用した精子提供では名前を明かさないのが普通であるとも考えていたという。

A子さん「京大卒なんですよね」

 B氏は3回うなずく。

A子さん「何県出身なんですか」

B氏「静岡です」

A子さん「静岡なのに東大ではなくなぜ京大に進学したんですか」

 この問いには明確な答えはなかったという。

 初回の面会か2回目の面会で、B氏は次のようにも話したという。

「静岡県三島市出身」

「名字は超普通で、下の名前は『リョウ』で漢字は珍しいので教えられません。母親の名前はヨシミです」

 流暢な日本語で話すB氏がまさか日本国籍ではないとは思いもしなかったという。

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