ウクライナ侵攻をめぐり国際的批難がやまないロシアのプーチン大統領。ロシア国内からも大規模なデモが起こっているが、多くの人が逮捕されるなど、状況は悪化していくばかりになっている。
プーチン大統領にはなぜ、人々の声が届かないのか。ロシアにおけるプーチン批判者について、池上彰著『速すぎるニュースをゆっくり解説します』から、一部を抜粋して引用する(文春文庫、2019年3月刊 以下、年齢・肩書き等は本文のまま)。
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かつてのソ連、いまのロシア、批判は…
かつてのソ連時代には言論の自由がなく、政府を批判した人物は逮捕されました。あるいは、「こんなに理想の社会を悪く言うとは、精神に問題がある」として、精神科病院に収容されました。
一方、いまのロシアには言論の自由があり、政府の批判をしても逮捕されることはありません。その代わり、何者かによって殺害される危険があります。
さて、どちらがいいか……などというのはブラックジョークですが、いまのロシアは、まさに「おそロシア」と呼ばれるような状態になってしまいました。有力な野党指導者が、モスクワ市内の中心部で暗殺されたからです。
プーチン大統領の執務室があるクレムリン。クレムリンとは「城塞」の意味で、帝政ロシア時代に建設された宮殿のこと。ロシア革命でソ連共産党が政権を握ると、共産党の本部が置かれ、クレムリンは共産党の別称になっていました。ソ連崩壊後は、エリツィン、そしてプーチン大統領の居住区兼執務室です。
このクレムリンに近いモスクワ川にかかる橋で、2015年2月27日深夜、元第一副首相のボリス・ネムツォフ氏が何者かに銃撃されて死亡しました。
ネムツォフ氏が政治に関与するようになったきっかけは、1986年にウクライナで起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故でした。原発反対運動をする中で政治の世界に入り、同じボリスという名前のエリツィン大統領の知遇を得ました。