「西側諸国はわが国に対し、経済分野で非友好的な手段を取るだけでなく、NATO主要国の首脳らはわが国について攻撃的な声明を出した」

 ウクライナ侵攻への対ロ経済制裁が西側諸国から発表されるや、ロシアのプーチン大統領は強く批難、核戦力を含む核抑止部隊を高度の警戒態勢に置くよう軍司令部に命じた。

2022年2月28日、モスクワのクレムリンで会議に臨むプーチン大統領 ©AFLO

 あまりに強引な侵攻にロシア国内でも大規模なデモが起こっているが、多くの人が逮捕されるなど、文字通りの“弾圧”が続いている。プーチン大統領にはなぜ、人々の声が届かないのか。ロシアにおける言論の自由について、池上彰氏『速すぎるニュースをゆっくり解説します』から、一部を抜粋して引用する(文春文庫、2019年3月刊 以下、年齢・肩書き等は本文のまま)。

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副編集長が不審死、記者が射殺…

 ロシアに、プーチン政権を批判し続けてきた新聞があります。「ノーバヤ・ガゼータ」(新しい新聞)という名前の新聞です。この新聞は、多くの記者の犠牲を出しながらも、政権批判という孤塁を守ってきました。

国内外からの強烈な非難が集まるプーチン大統領 ©AFLO

 言論の自由がなかったソ連が崩壊後、自由な言論活動をするメディアが次々に生まれましたが、プーチン政権になると共に、ロシアの放送局は次々に政権寄りの報道をするようになります。政権寄りでない放送局はプーチン政権に近い富豪によって買収され、批判しなくなります。新聞社も御用新聞ばかりになりました。

 それだけに「ノーバヤ・ガゼータ」は貴重な存在ですが、払った犠牲も大きなものです。これまでに5人もの記者が殺害されてきたからです。

 2003年には副編集長が不審死を遂げています。高熱を出してモスクワの病院に入院しましたが、顔の皮膚が剝げ、脱毛も始まり、呼吸困難となって死亡しました。

 当時は原因が不明でしたが、放射性タリウムを、何らかの方法で体内に入れられたためと見られています。放射性タリウムなど、普通の人が入手することは困難です。

 2006年には、女性記者のアンナ・ポリトコフスカヤ氏がアパートのエレベーター内で何者かに射殺されるという悲劇に見舞われました。