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副編集長が不審死、女性記者がエレベーター内で射殺され…「プーチン批判」を続けたロシアの新聞社に起こったこと

『速すぎるニュースをゆっくり解説します』より#2

2022/03/02

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 国際, 政治

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「彼女の書いた政権批判の記事以上に、暗殺によってロシアは大打撃を被った」

 この事件には、多くの人が衝撃を受けたのですが、プーチン大統領はポリトコフスカヤ記者の関係者にお悔やみを言うことは一切ありませんでした。普通ならば、とりあえずは「言論の自由に対する侵害だ」などと言うところでしょうが、「彼女の書いた政権批判の記事以上に、暗殺によってロシアは大打撃を被った」と言ってのけたのです。反政府のジャーナリストが殺害されるのは、プーチン政権を貶めようとする陰謀だというわけです。

 このポリトコフスカヤ氏以外にも、2009年には、同紙の顧問弁護士でチェチェンの人権問題に取り組んでいたスタニスラフ・マルケロフ氏と、彼を取材中だったアナスタシア・バブロワ記者が白昼の路上で射殺されています。

「ノーバヤ・ガゼータ」は、ソ連崩壊後の1993年に創刊。ソ連最後の大統領となったミハイル・ゴルバチョフも出資して話題になりました。週3回の発行で、発行部数は公称27万部という小さな新聞です。

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©AFLO

 しかし、広告が激減し、苦しい経営が続いています。民間の新聞や放送局に広告を出している広告主に圧力をかけ、広告を出すのをやめさせる。気に食わないメディアを黙らせるには、これが一番有効な方法であることを、「ノーバヤ・ガゼータ」の悲劇は物語っています。ロシアから「言論の自由」の灯が消えかかっているのです。

「メディアを懲らしめる」はロシアだけではない

 ここまで読んでこられた読者は、私が何を言いたいか、もうおわかりですね。2015年、日本にも「メディアを懲らしめるには広告収入をなくせばいい」と発言した議員がいた件です。この議員が所属している政党の名前には「自由」と「民主」の言葉が入っています。自由で民主的な世の中が素晴らしいと思っている人たちの集まりのはずなのに、そうでない人もいたのですね。

 こういう人に想像してもらいたいことがあります。将来、再び政権交代が起きたときのことです。政権を取った政党の議員が、同じことを発言したら、どう思いますか? 

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