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 たとえば2006年にはプーチン政権に批判的な報道を続けてきた独立系新聞社「ノーバヤ・ガゼータ」(新しい新聞)の女性記者アンナ・ポリトコフスカヤ氏がアパートのエレベーター内で何者かに射殺されました。容疑者として、このときもチェチェン出身者が逮捕されましたが、背後関係は解明されませんでした。

 同じ年、ロシアの元情報機関幹部でイギリスに亡命したアレクサンドル・リトビネンコ氏が、ロンドンで放射性物質「ポロニウム210」を摂取させられて、死亡しました。

 ポロニウム210は、大規模な核施設がなければ生成させることはできないもの。国家的な組織にしかできない犯行でした。ロンドン警視庁は、事件の容疑者としてロシア人を特定し、ロシア政府に身柄の引き渡しを求めますが、ロシアは拒否。名指しされた人物は、その後、国会議員選挙で当選。ロシア国会の議員になっているのです。

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 さらに2009年には、チェチェンの人権問題に取り組んでいた弁護士のスタニスラフ・マルケロフ氏と、一緒にいた「ノーバヤ・ガゼータ」の嘱託記者アナスタシア・バブロワさんが銃撃されて死亡しています。

「プーチン大統領は別の世界に住んでいるようだ」

 今回の事件に関連し、2月28日、ロイター通信は、1924年にイタリアの首都ローマで起きた殺人事件を引き合いに出した論評を配信しました。

 殺害された政治家はジャコモ・マッテオッティ氏。同氏は殺害される少し前に議会で当時の指導者ベニート・ムッソリーニと彼が率いる国家ファシスト党を批判する演説を行ってきました。事件後、複数の容疑者が逮捕されましたが、裁判の判事は政権派に代えられ、有罪判決を受けた者たちは恩赦が与えられたそうです。

 その後、イタリアがどのような道を進んだかは、ご存じの通りです。

 2014年2月、ウクライナの停戦をめぐり、プーチン大統領と会談したドイツのメルケル首相は、アメリカのオバマ大統領に対して、「プーチン大統領は別の世界に住んでいるようだ」と感想を語ったそうです。

 ロシアはもう、「別の世界」に行ってしまったのでしょうか。

2022年2月28日、モスクワのクレムリンで会議に臨むプーチン大統領 ©AFLO