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「この後どれほどの命ですかね」石原慎太郎の絶筆に綴られていた“余命宣告の衝撃”

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 2月1日、作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が89歳で亡くなった。子どもたちに託された最後の作品は、次の一節から始まる。

〈令和三年十月十九日

 コロナ騒ぎに幻惑され反対する家族の反対を押しきり、このところ続いている腹痛の原因をしらべるためにあえてNTT病院に出向いて検査をうけた。相手の医師は、以前リキッドバイオプシーで膵臓の癌を指摘してくれた神田医師その人だった。

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 あれは一目にも恐ろしい光景で、私も思わず息を飲んで今さらおいつくまいと覚悟しながら画面一面満天の星のように光り輝く映像を眺めながら、

「これで先生この後どれほどの命ですかね」

 質したら、

 即座にあっさりと

「まあ後三ケ月くらいでしょうかね」

 宣告してくれたものだった。

 以来、私の神経は引き裂かれたと言うほかない〉

石原慎太郎氏 ©文藝春秋

 重粒子線によって焼き尽くしたはずの膵臓がんは再発していた。作家を襲った衝撃は大きかった。その日以来、「死」との格闘にさいなまれる。

 脳裏によみがえるのは畏友江藤淳のこと。そして、ある夜の夢で作家は、昔熟読したヘミングウェイの『日はまた昇る』の主人公となる。