怪力と剛腕がガチンコでぶつかり合った。
3月5日の福岡ソフトバンクホークス対千葉ロッテマリーンズのオープン戦は、ちょっと異様な雰囲気というか、本番さながらの緊張感がそこにはあった。
マリーンズ先発の佐々木朗希投手が福岡PayPayドームに初見参。比較的スピードガン表示が出やすい球場と言われるが、だとしても佐々木朗の剛速球は十分すぎるほどの見応えがあった。
立ち上がりの初回に投じた直球の全7球が160キロ超をマーク。そして2回裏、中村晃外野手を空振り三振に仕留めた勝負球が、自己最速タイの163キロを示した。
ホークスが用意した「佐々木朗希対策」
藤本博史監督はある“秘策”を用意し、試合前取材で報道陣に明かしてくれていた。
そのヒントは2月26日のキャンプ地・宮崎でのバファローズ戦にあった。あの日、ホークス先発の千賀滉大投手は3回8安打4失点と打ち込まれた。キャンプで敢えて疲労をため込んだ状態での登板で本調子ではなかったことを差し引いても、千賀の球をいとも簡単に弾き返す猛牛打線を見た藤本監督はある思いを抱いていた。
「真っ直ぐとフォークがいいピッチャーの場合はしっかりセンターに打ち返すようにコーチが指示をするのが通常なんですよ。だけど、150キロ後半となってくると、その狙いで行くとファウルになってしまうんですよ。(準備が)間に合わない。だからオリックスの選手は引っ張りに行っとった。実際、そういうヒットが多かったしね(8本中5本が引っ張り)。だから、うちのコーチにも話をして、引っ張りの意識を持って佐々木朗に対峙してみようと。今の時期やから試せることもあるしね」
しかし、新監督のアテは外れた。
佐々木朗の投球成績は5回65球、被安打2、奪三振9、与四球1の無失点だった。
「あの(140キロ台後半の)フォークが厄介やったね。考えないといけないですね。打てないままで終わってしまったらプロじゃないんでね。今度はシーズンに入ってからだと思うけど、当たったときには球数を投げさせるとか、攻略法を考えて挑んでいきたいなと思います。いいピッチャーですよね」
“豪腕”佐々木朗と“怪物”リチャードが見せた力勝負
ホークス打線はほぼ完全に封じ込められてしまったのだが、放った2安打中の1本を記録したのが、期待の大砲であるリチャード内野手だった。
極上の力勝負はこの日2度あった。
最初の打席は3回裏無死。初球は高め159キロをファウル。続く2球目も高め直球だ。これが161キロを計測してリチャードは完全に詰まらされたが、規格外のパワーで真正面に弾き返した。打球はセンター前へと弾むヒットとなった。
リチャードは衝撃の100マイルを試合後にこんな風に振り返った。
「今まで(元同僚で昨季まで阪神守護神の)スアレスが一番速い投手と思っていたけど、余裕でそれより速かった。反応で打った感じ。どう打ったか、あんまり憶えていないくらい」
記憶が吹っ飛ぶほどの剛速球だったようだが、ただ、打席での意識についてはしっかり明確だった。とはいえ、リチャードらしいエピソードがそこにはちりばめられていた。
「この回の攻撃前にベンチ前で円陣が組まれてたんですけど、僕は先頭打者だったので防具をつけたりしなくちゃいけないから参加できなくて。何話してんだろと思ってたら、そんな僕に本多(雄一・内野守備走塁)コーチが気づいてくれて。『リッチ、上からコンって言ってたぞ』って教えてくれたんです」
上からコン?
報道陣がキョトンとすると「上からコンパクトに打てってことっす」と補足してくれた。
少しダウンスイングを意識して、コンパクトに鋭く振り抜く。だから、高めの161キロにも対応できたのだ。
「球がもの凄く速いんで、そのボールの力を利用して打てばいいんです」
そう話すリチャードはちょっとだけ胸を張っていたように見えた。