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どうして“初音ミクの会社”は札幌にあり続けるのか? ミク“生みの親”が考える「地方創生」

クリプトン・フューチャー・メディア代表 伊藤博之さんインタビュー#2

note

クリエイターをつないで「シメパフェ」が生まれた

――伊藤さんは道東の標茶町出身ですよね。札幌という都市の「ちょうどよさ」や、IT系企業に対する土壌のほかに、伊藤さんが持っている北海道への愛着もまた会社を札幌に置いている理由の一つなのかなと想像するんですが、いかがですか?

伊藤 愛着はもちろんありますが、北海道は何もなくて可哀想だからちょっと手伝うか、みたいな気持ちはさらさらないんです。それとは全く逆で、北海道にはものすごい可能性があると思ってます。先日、最北端の町、稚内の高校で授業をしてきたんです。200人くらいの生徒さんを前に「卒業したらこの宗谷圏内に残る人」って聞いたら、1割、2割の人しか手を挙げなかったんですよね。どこでもそうですが、地元の人っていうのは身の回りにある魅力に気づかないもの。でも、稚内を含む宗谷地方って優良な木材の産地として有名で、わざわざ移住して工房を開いて工芸品を作る人もいるほどなんです。こうした今あるものを、さらに良いものにしていくには発信力や、情報デザインの方法、それらを包括するITの素養というものが重要になっていくと思うんです。だから、授業で高校生に接しながら、もっといろんなことができる可能性があるんだよってことを、若い世代に伝えていかなきゃと思いを新たにしました。

 

――そうした「可能性」を広げていく試みがいわゆる「地方創生」につながっていくのだと思いますが、伊藤さんご自身は何か取り組みをされていたりするんですか?

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伊藤 様々な分野のクリエイターのハブとして、北海道を盛り上げる役割の一端を担いたいと色々やっているところです。このクリプトンという会社のお客さんはほとんどがクリエイター。音を買ってくださるのはゲームクリエイターや映像クリエイターですし、初音ミクを使ってくださる方は音楽クリエイター。ミクの二次創作する方にはイラストレーターもいらっしゃるし、コスプレのための衣装デザイナーもいるし、さらには小説を書く方までいる。さらに、クリエイターという概念を広げてみると、北海道ならではの美味しい野菜をつくる農家とか、あるいは魅力的な観光地をつくろうとしている人とか、そういう人たちも「クリエイター」だと思うんです。そういう人たちをつなぐ試みを、ここ2、3年前から始めてまして、例えば「シメパフェ」とか。

「社員がエイプリル・フールにくれたんです(笑)」

――シメパフェって何ですか?

伊藤 飲んだあとのシメはパフェにしようっていう、札幌のブームです。

――謎のブームですね。

伊藤 いやまさに、謎のブームみたいに面白がって取り上げてくれるメディアがどんどん増えてきて、旅行雑誌の『じゃらん』とか、JTBとかから始まって、北海道物産展に呼ばれるようになり、『秘密のケンミンSHOW』でも取り上げてもらい、ついには『マツコ会議』にも取り上げられて……。もとは当社でカフェをつくるに当たり知り合いの酪農家に「美味しいソフトクリーム考えて」っていう話をしたところから始まったんです。あんまり数がいない牛の牛乳を材料にしたソフトクリームを作ってくれたんですけど、それがあまりにも美味しかったのでパフェにして、せっかくだから盛り上げちゃえと、ススキノでパフェを出しているお店と横連携しました。