罰金53億円、複数女性への性的暴行――超ド級の醜聞ひしめく中国の歪んだエンタメ事情。ジャーナリストの高口康太氏による「共産党が狙う芸能人スキャンダル」を一部公開します。(「文藝春秋」2022年4月号より)

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「2021年は、中国芸能界にとっては悪夢の1年となった」——こんな言葉がささやかれるほど、昨年は醜聞が続出した。飛び交うビッグマネー、爛れた性生活、“劣跡”(悪行)が横行する中国芸能界を利用して、中国共産党は自らを正義の使者として位置づけようとしている。

中国国内では違法の「代理母出産」を2人同時に

 数々の大作テレビドラマで主演を演じてきた鄭爽(ジェンシュワン)。日本でいうなら石原さとみ・長澤まさみクラスの清純派看板女優だが、秘密裡の結婚からの離婚調停、泥沼の訴訟、カネにモノを言わせた代理母出産、そして脱税とスキャンダルが噴出した。

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 鄭は1991年生まれ。数々の名優を生み出してきた北京電影学院の出身だ。在学中に出演したドラマがヒットし、以来10年以上にわたり中国のトップ女優として君臨してきた。だが、昨年のスキャンダルですべてを失ってしまった。

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 発端となったのは鄭が起こした裁判だ。彼氏と噂されていた俳優・張恒(ジャンハン)に対し2000万元(約3億6000万円)の返済を求めるものであったが、2人は恋人どころか秘密裡に結婚しており、さらには離婚訴訟まで始まっていることが明らかとなったのだ。

 清純派女優の結婚、離婚となればそれだけでビッグニュースだが、話は終わらない。訴えられた元夫の張は当時米国に滞在中だったが、「借金から逃れるために高飛びしたのではない。2人の小さな命を守るためだ」との文章をインターネットで発表したのだ。実は両者の間には子どもがいたのだが、それは鄭がお腹を痛めて産んだ子ではなかった。米国で代理母を探して作った子どもであった。

 中国の富裕層では米国への出産旅行は珍しい話ではない。出生地主義を取る米国では、両親の国籍を問わず米国領内で生まれた子どもには米国籍が与えられることが要因だ。一時はサイパン、グアムの産婦人科病院が中国人でパンクしたほどだ。

 だが、代理母を使った出産となれば話は別だ。しかも子どもは双子ではなく、同時に2人の代理母を雇うという、金に物を言わせたやり口で作っている。代理母出産は中国国内では違法行為だ。鄭は「米国では合法だ」と弁明したが、人々の怒りは高まるばかりだった。カネとコネがあればなんでもできるのが中国社会とはいえ、ここまでやるのか、と。