クリスが「莫大な資産を持つ芸能界のスター」であり、「カナダ国籍の外国人」であることから、中国国民の間では、二重の特権に守られて軽微な処罰に終わるとの噂もあったが、これを打ち消すように、中国共産党中央紀律委員会は「絶対に手を緩めない」との声明を発表している。
中央紀律委員会は汚職官僚など党紀違反を摘発する部局であり、一般犯罪には無関係のはずだが、金持ちであれ外国人であれ、習近平政権は悪を見逃さないとアピールした格好だ。この大見得を切ってしまった以上、クリスには通常よりも厳しい判決が下されることは間違いない。クリスは「悪を制裁する中国共産党」という姿勢をアピールするための犠牲になったとも言えそうだ。
「オレと一緒に居られるだけで、女は感謝すべき」
昨年の中国芸能界のスキャンダルはこれだけではない。
イケメンのシンガーソングライターとして人気があった霍尊(フォズン)は、売れない時代から交際を続けてきた彼女と別れようとするも、手切れ金でもめた結果、暴力を振るってきた過去や「オレのような男と一緒に居られるだけで、女は感謝すべき」といった居丈高な言動がさらされ、芸能界を追放処分に。
バラエティ番組の司会者である銭楓(チェンフォン)も強姦を暴露されて契約を打ち切られた。
ショパン国際ピアノコンクールで優勝し、日本にもファンが多かった“ピアノの貴公子”李雲迪(リユンディ)は買春容疑で逮捕された。
「中国芸能界悪夢の一年」を締めくくったのが、台湾系だが中国でも人気の歌手・王力宏(ワンリーホン)の離婚だ。
王は1976年生まれの台湾系米国人。バークリー音楽大学で学び、優れた音楽的才能で活躍してきた。俳優としてもキャリアを積み、ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞の映画「ラスト、コーション」に出演したほか、香港映画の「SPY N」では藤原紀香と共演、映画「MOON CHILD」でGACKTと共演するなど、日本でもよく知られた中華圏のトップスターだ。
ゴシップ好きの台湾メディアの監視に晒されながらも、大きなトラブルもなく40代を迎えた優等生……そんなイメージが一気に壊れた。
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ジャーナリスト・高口康太氏による「共産党が狙う芸能人スキャンダル」の全文は「文藝春秋」2022年4月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
【文藝春秋 目次】<絶筆>石原慎太郎「死への道程」/<芥川賞>「太陽の季節」全文掲載/驕れる中国とつきあう法/「品格なき大国」藤原正彦
2022年4月号
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