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《日本は「盾」、米国は「矛」という時代は終わった》自衛隊元最高幹部が問う「専守防衛」の見直し

2022/03/19
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「攻める」ほうが「守る」よりも有利

 かつてPKO(国連平和維持活動)やイラクなどへの自衛隊派遣を巡って議論をした時のことを思い起こしてほしい。あの時は「日本として何を目的に定めるのか」「国益に合致する行動とは何なのか」という議論をすべきであったのに、憲法・法律に合うかどうかという議論に嵌って立ち往生してしまったのだ。その結果、政策は後手後手に回ってしまった。

 弾道ミサイルについて言えば、北朝鮮は200台、中国はそれ以上の移動発射台を保有している。日米の情報衛星などを動員しても、すべてのミサイルを発射直前に探知して破壊するのはほぼ不可能だろう。

 一般に、「守る」より「攻める」ほうが有利であり効率がよい。守りは敵からのあらゆる攻撃の可能性を封じる必要があるが、攻めは選択肢が豊富で主導性がとれる。予算的にも当然、攻めのほうが効率が良い。私たちは提言のなかで、「例えば、反撃能力についても抑止力の一部として、保有することを前提とした政策策定を急ぐべきである」と主張している。

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 反撃能力はミサイルなどの装備に加えて、周辺の状況を判断する「情報収集」や目標を定める「識別」、実際の「発射」、目標に命中したかどうかの「評価」など一連のシステムで構成される。この反撃能力は、日本と米国が協力することで、より精度を増し大きな力を発揮できる。例えば、今年1月の日米2プラス2共同文書が「議論を継続する」とした低軌道衛星コンステレーションがそのひとつだ。複数の小型人工衛星を打ち上げて連携することで、ミサイルなどに対する監視体制を強化できる。

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 私は陸上自衛隊で野戦特科(砲兵)だった。その経験から言えば、相手が日本をミサイルで攻撃した後、しばらくは発射台やレーダー装備などのシステム担当部隊が撤収作業のため、現場付近に残るものだ。発射寸前のミサイルを破壊することは難しいが、こうしたシステムが現場から撤収する前に破壊するチャンスはある。反撃といっても、あくまでも、その対象は相手の攻撃システムや指揮統制機能の関連施設等であり、相手の首都や民間人を狙った報復行動は許されない。

 北朝鮮は、弾道ミサイルや核兵器など、相手を攻撃する能力は非常に高い。だが、レーダーシステムや地対空ミサイルのような、国土を守る能力はぜい弱だ。防空体制としては、地対空ミサイルSA5(射程200~250キロメートル)を保有し、敵機を早期に発見する探知レーダー(射程400キロ)とミサイルの照準を合わせる射撃統制レーダー(同200~250キロ)で運用しているが、老朽化が著しいことや電力難から、十分に稼働していないという報告もある。

 日本は、総合防空システムとしての迎撃能力の向上と同時に、米国と協力して反撃能力を向上させていけば、北朝鮮が日本への攻撃を思いとどまる確率は高くなる。これがすなわち、北朝鮮に対する抑止力だ。国土の防衛は自らの守りを固めるだけでは足りず、このように相手の弱点を考えて対応することが重要だ。

 元統合幕僚長・折木良一氏による「『専守防衛』『非核三原則』を議論せよ」の全文は「文藝春秋」4月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

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「専守防衛」「非核三原則」を議論せよ
《日本は「盾」、米国は「矛」という時代は終わった》自衛隊元最高幹部が問う「専守防衛」の見直し

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