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《現場責任者を書類送検》着ぐるみ熱中症死亡 元スタッフが告発「すぐに脱いでいれば……人命よりも夢という環境」

大阪「ひらかたパーク」アルバイト死亡事故#1

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 大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で2019年7月、着ぐるみを着ていた男性アルバイトの山口陽平さん(当時28)が熱中症で死亡した事故で、大阪府警枚方署は2022年3月16日、業務上過失致死の疑いで、現場責任者だった京阪レジャーサービスの男性社員(44)と女性社員(47)を書類送検した。

 当時、取材班は現地で関係者を取材。複数の元パーク従業員が運営への不信感を告白し、いかなるときも人前で着ぐるみを脱ぐのはご法度とされている業界の悪しき慣習や、パーク現場責任者が関係者へ送った「懺悔LINE」などをスクープした。

 着ぐるみ業界全体に激震が走ったこの事件。当時の記事を再公開する。(初出:2019年8月5日 年齢、肩書などは当時のまま)

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 関西を代表する猛暑の街、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」にて7月28日、スタッフ・山口陽平さん(28)が、着ぐるみショーの練習後、熱中症で死亡した。

 救護にあたった消防局関係者が話す。

「20時03分に119番通報、脱水症状で意識、呼吸なしという報告を受けた。20時12分救急隊員が現地到着。関係者が蘇生をおこなっていたが、脈も無かった。すぐに近所の医療センターに運んだが間に合わなかった」

「国内最古の遊園地」で起きた悲劇

 山口さんは既婚者で、昨年12月からダンサー、着ぐるみ、MC、キャラクターのエスコートなどをする営業チーム・エンターテイメント担当のアルバイトとして働いていた。

「業界としては未経験だが、昔から夢だった仕事で必死に働いていました。『結婚もしていますし、一日でも早く一人前になりたい』って……」(同園関係者)

 ひらかたパーク、通称“ひらパー”は1912年に開業。継続して営業している遊園地としては「国内最古」として知られている。

「毎年100万人以上来場する地元で人気のテーマパークです。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が進出した2001年以降、赤字が続き、来場者数も一時80万人まで低迷しました。が、ブラックマヨネーズの小杉竜一(46)やV6の岡田准一(38)がイメージキャラを務める『ひらパー兄さん』『超ひらパー兄さん』の影響でV字回復。昨年の来場者数は130万人を超えています」(テーマパーク関係者)

幼少期には「ひらかたパーク」で遊んだという枚方出身の岡田准一 ©文藝春秋

 山口さんが入っていた着ぐるみは、パークのマスコットキャラクター「ノームのなかまたち」の「トランプ」という全身緑色の巨大なトロールで、着ぐるみの総重量は15キロ。28日は2度装着したという。

山口さんの死は“炎天下の不幸”ではなかった

 同園の広報担当者が話す。

「(山口さんは)お昼ごろに出社して、グリーティング(着ぐるみで接客)の対応をしていました。その後、バックヤードで軽装に着替え、ショーの練習をした後、19時から再び着ぐるみの準備をして、19時30分からリハーサルの通し練習をしました。

 リハ中はいつもと変わった様子もなく、19時50分に終わり、バックヤードに戻っていく途中の通路で体調が急変したと聞いています。最初はフラフラとしたので一人スタッフが駆け寄り、それでも歩けないのでもう一人が駆け寄った。支えられながら辿りついた控え室で、救命措置を施されながら救急車を待っていたと聞いています」

山口さんが入っていたというトロールの着ぐるみ「トランプ」(同園ポスターより)

 実は山口さんは前日に体調を崩し、風邪薬を服用していたという。一見、炎天下での不幸が重なった事故とも見えるこの事案。だが、情報提供サイト「文春リークス」には複数の元パーク従業員から情報が寄せられ、運営への不信感を告白した。

「いつか起きると思っていました……」

 そう話すのは、数年前に2年ほど同園でキャラクターの着ぐるみに入っていたA子さん(30代)だ。