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「娘も生まれたばかりなのに」悪性の希少ガンを患った東関親方41歳の闘い

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 横綱曙を生んだ名門部屋を31歳で継いだ元潮丸の東関親方。部屋を新築し、待望の娘が生まれた矢先、体に異変が。咳が止まらず、痩せ細っていく――悪性の希少ガンだった。41歳で亡くなるまで2年間の闘いの記録。(全2回の1回目。後編を読む)

生涯戦績482勝448敗、最高位は西前頭10枚目

 結婚してくれてありがとう。娘を授けてくれてありがとう。あなたと出会えて本当に幸せでした。いつまでも愛しています――。

 妻がそっと耳元に語りかけた。ベッドに横たわる夫は、か細く息を響かせるだけで、もう何も応えてはくれない。

 2019年12月。その日、東関親方こと佐野元泰氏(以下、東関)は、入院先の病院から自宅へと搬送されていた。最期を我が家で看取るためだ。

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「もう苦痛は感じていないと思いますが、耳は聞こえています」

 在宅医の言葉を信じ、夫の隣に布団を敷いた妻の真充(まみ)さん(42)は、溢れる涙に構わず話しかけ続けた。

 娘は大切に育てるよ。力士たちのことも心配しないでね。私にもその時が来たら、必ず迎えに来てね。

 翌日の12月13日。東関は穏やかに息を引き取った。享年41。