この人ほどキャリアに見合う評価が得られないスターもいない。注目されるのは恋の遍歴ばかり。でもその裏で人種、性への偏見と闘ってきた彼女は、50代でラブコメに主演する。
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プエルトリコ系の「無冠の女王」
ジェニファー・ロペスにはいくつもの肩書きがある。女優、歌手、ダンサー、プロデューサー、デザイナー、実業家、双子を育てるシングル・マザー、そして恋多き女。それら全てでJ.Loというスーパーブランドは成立している。CDは7500万枚以上売れ、その名を冠した香水やコスメもビッグ・ビジネスに。NYの下町ブロンクスでプエルトリコ出身の両親の元に生まれ、野心を隠すことのなかった彼女は、ショービジネス界で最も成功したラテン系女性となった。
しかし無冠の女王でもある。主演映画とアルバムが同時に全米一位になったのは彼女が史上初めて。だがオスカーにもグラミーにも縁遠い。象徴的なのが2年前、『ハスラーズ』でベテランのストリッパーを好演し、オスカー助演女優賞は確実と言われていたのに、候補にすら入らなかった。それは保守的なアカデミー会員の人種的偏見が背景にあることは容易に見てとれた。
だがロペスは負けない。直後にスーパーボウルで同じラテン系のシャキーラとど迫力のパフォーマンスを見せ、いかなる人種差別にも女性差別にも屈しないと表明し、絶賛を浴びたのだ。
そんな52歳の彼女が久々に映画に主演するにあたり、取材ができることになった。映画はその名も『マリー・ミー』。ロペス自身を思わせる世界的ディーバ、キャットが婚約者の浮気を知って、見ず知らずの数学教師チャーリーに衝動的にプロポーズをするという、ロマンティック・コメディだ。
目の前(と言ってもオンライン取材だが)のロペスは、白いパンツスーツ姿で、白い花に囲まれてスイートルームで満面の笑みを見せている。まるでハネムーンのような甘い雰囲気を醸し出す。
「キャットはアーティストとしての自分には誇りを持っているけれど、私生活は大違い。でもチャーリーが現れたことで、美しい旅が始まるの。
彼女の一番の望みは、愛する人と生きること。ごく普通の幸せだけど、名声の持つ罠にハマっている彼女にはそれが難しい。でもチャーリーは希望を与えてくれた。今まで手にしたことのない真実の愛を、そして本当に帰るべき場所を持つことが出来ると。彼女の人生を一変させてしまうの」