女性キャストが女性客に性的サービスを行う風俗――その存在を見聞きすることはあっても、なかなか体験するにはいたらない。そんな世界を舞台にした、異色のお仕事漫画がある。百合のジャンルで活躍する漫画家・天野しゅにんたさんによる『愛されてもいいんだよ』(講談社)だ。

 主人公の倫(りん)は23歳、試用期間中の会社員。優しげな見た目と気弱な性格ゆえに、上司からはセクハラを受け、同僚からは理不尽な陰口をたたかれる始末。ひたすら耐え忍ぶ日々を送れども、正社員になれる見込みも薄い。積もり積もったストレスに打ちひしがれる倫を救ったのは見知らぬ一人の女性。「2万でアタシの2時間買って、人生変わるよ」と持ち掛けてきた彼女の正体は、レズビアン風俗店のキャストだった。

©天野しゅにんた/講談社

 本作では実在する店舗「レズっ娘クラブ」が取材協力している。実際に訪れる客層は20代から70代と幅広く、セックスレスが原因で夫公認で来ている人もいるとか。

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「性欲を解消するために利用する人ももちろんいますが、そうでない人もいることが取材してわかりました。性の悩みに限らず、仕事や人間関係などの不安を抱えていて、それを解決したい、あるいは『いいんだよ』と肯定されたいのかもしれない。『愛されてもいいんだよ』というタイトルは、そんな思いを込めてつけました」(天野しゅにんたさん)

キャストの絡みを「鑑賞」

 本作の執筆にあたり、天野さん自身も「鑑賞コース」を体験したそうだ。

「その名の通り、キャスト同士の絡みを鑑賞するというコース内容です。女性同士に限らず、他人の性行為を生で見るのは初めての体験でしたから、とにかく圧倒されましたね。お客さんの目線を考慮して体の見せ方や体位を工夫されていて、キャストの方々のプロ意識を感じました。撮影はもちろんNGですが、スケッチはOKとのことで、私もさせてもらいました」(同前)

©天野しゅにんた/講談社

 勇気を振り絞ってレズビアン風俗を初利用した日を境に、倫の人生はめまぐるしく変化していく。清々しい気持ちで会社を辞め、自らがキャストに。不器用ながらも真摯に仕事に取り組むうちに自信を取り戻し、いつしか “癒しを与える側”へと成長してゆく。そんな倫が恋に落ちた相手は――。

「読者の方から『疲れている女の子が女の子に気持ちよくされて、癒されてふわふわしているのっていいなと思いました』という感想をいただいたことがあります。お金を払って性的サービスを受けることについては賛否両論ありますが、それでも利用したい、しないではいられないというほど追い込まれている女性も少なくないはず。そういった方々が救われてほしいと思って描きました。倫の成長と恋の行方を見守りながら、読者のみなさんがご自身の愛を探す手がかりになれば嬉しいです」(同前)

注:本作において「レズ風俗/レズビアン風俗」という言葉は、レズビアン当事者であるなしにかかわらず利用でき、女性同士の性的行為を行う業態を指すものとして使用しています。