それにしても不思議なのは、プーチン氏が2018年9月に「従来のアプローチを変えよう」と提案していることだ。2016年5月の首脳会談では、「新しいアプローチ」で対応していくことで合意している。
それなのに2年後に飛び出した「従来のアプローチを変えよう」とはなにを意味しているのか、プーチン氏の発言に不信感は募るばかりだ。まさに、嘘に嘘を重ねているのだ。
結果的に、プーチン氏は日本を騙したことになった。約束した2018年末までに、平和条約が締結されることもなければ、それにむけての進展さえもまったく見られなかった。
プーチン政権は、いったいなにを考えているのだろうか。北方領土問題を餌に日露共同経済活動を拡大したいだけなのか。平和条約を締結するといっても、その後に領土を返還するとは一言も口にしていない。日本政府を攪乱(かくらん)するための戦略が、見え隠れする。
それにしても、プーチン氏の「いま、思いついた」という発言自体、不謹慎といえる。外交には相手国があり、事前の打ち合わせがないままで、内外メディアのまえで「思いついた」とわざわざ前置きしながら提案すべきではない。プーチン氏は、日露関係を自分の思うままに動かすことができると軽く考えているに違いない。プーチン氏の悪意を垣間見(かいまみ)た感じがした。
ロシアが本音を吐いた
結局、2018年末までに平和条約を締結することがなかったプーチン政権……。
どこまでプーチン氏を信頼してよいのか。
2019年に入ると、領土問題へのロシア側の姿勢が明らかに変化した。プーチン氏の側近たちが、北方領土を支配する正当性を躍起になって主張しはじめた。ラヴロフ外相は1月17日の年頭会見の席で、「日本が第二次世界大戦の結果を受け入れる」ように強く求めた。「北方領土」という名称を使用することにも、不快感をあらわにした。
さらに同年8月には、ラヴロフ氏は平和条約について交渉する条件として「日本が第二次世界大戦の結果を認める」ことを挙げた。
プーチン氏は平和条約交渉にあたって「いかなる条件もつけない」と公言した一方で、日本政府としては厄介なラヴロフ外相を相手に交渉することを余儀なくされている。プーチン氏とラヴロフ氏は結託(けったく)して、日本を撹乱しているように思える。