北方領土に対する強硬な態度
加えて、ラヴロフ外相の発言の直前の8月2日、メドヴェージェフ首相が択捉島(えとろふとう)を訪問し、「クリル諸島(北方領土)はロシアの領土に決まっている」と記者団をまえに薄笑いを浮かべた。このように北方領土に対するロシアの主権をなりふり構わず打ち立てようとしている。
注意しなければならないのは、2018年の秋以降、北方領土周辺で軍事演習やミサイルの発射訓練を相次いで実施していることであり、ロシア側は「自国の領土での訓練であり、日本には抗議する権利がない」と主張している。択捉島と国後島には、地対艦ミサイル「バスチオン」と「バル」が配備されたようだ。
このようにロシアが北方領土を軍事基地化すると、日露間で合意している経済協力活動はどうなるのであろうか。北方領土にたくさんの軍事基地が開設されると、軍事機密を理由に日露間の経済活動が大きく制約されることになりかねない。
それだけではない。1992年以降、北方領土を舞台に日露間でビザなし交流事業が行われているが、軍事施設があるという理由で、相互の訪問が一方的に破棄される恐れがある。実際に、2020年度はすべての交流事業が中止になった。
新型コロナウイルス感染拡大のリスクを回避するためという建前があるものの、この新たな局面でもって交流の停止が既成事実化することは十分考えられる。
ロシア政府の高官たちが北方領土に対して、強硬な言動を繰り返している。領土問題を解決するために日本が乗り越えなければならないハードルをロシアはどんどん高くしているのである。「それでも日本はどんどん妥協してくる」とロシアのメディアは報じている。
実際、ロシアから強硬発言が飛び出すたびに、日本国内には「それでもプーチン氏こそが、本当に領土問題を解決できる。かれは最強の権力者だ」という言説が流布する。北方領土交渉が行き詰まるたびに、なぜかプーチン氏への期待感が高まるのである。これも、プーチン氏の罠(わな)なのだろう。