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マリウポリの市街地に広がる炎、黒煙を上げるロシア軍のヘリコプター…衛星画像とデジタルマップでわかる“ウクライナ侵攻”のリアル

マリウポリの市街地に広がる炎、黒煙を上げるロシア軍のヘリコプター…衛星画像とデジタルマップでわかる“ウクライナ侵攻”のリアル

渡邉英徳さんインタビュー#1

2022/03/31
note

衛星写真の撮影地点の特定は人力で行う

――衛星写真の場所は、どのように特定されているのですか? 衛星画像には撮影場所のデータも入っているのでしょうか?

渡邉 いいえ。配信されている衛星画像には、基本的に位置情報が付けられていません。ですから、一枚一枚画像と地図を見比べながら、同じものが写っている地点を特定していく必要があります。

 また、衛星画像は一般的な地図と異なり、北が上になっているとは限りません。とくに我々が多用しているマクサー・テクノロジーズ社の画像は、恐らくはメディアに掲載された際の見栄えを意識してトリミングされているので、ベースになっている地図をくるくる回転させながら「同じものが写っている地点」を探していきます。

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 狭い範囲にズームアップした衛星画像の場合は特に困難です。画像をマップに貼り付けるために、30分から1時間近くかかってしまうこともあります。

「Satellite Images of Mariupol」より
「Satellite Images of Mariupol」より

「影」の向きも場所特定の大きなヒントに

 場所の特定には、「影」の向きも大きなヒントになります。マクサー・テクノロジーズ社の衛星のように、太陽同期軌道を持つ衛星は、南中時刻に撮影する場合が多いのです。ですので、影は真北に伸びているはずです。衛星画像に写っている影の方位をもとに、画像の向きを推測することができるのです。

影の向きを頼りに北を割り出してあてはめたデジタルマップ(「Satellite Images of Around Irpin」より)

 また、マリウポリの破壊されたショッピングモールの画像については、地理的な推測に基づいてあてはめました。日本と同じく、大型のショッピングモールは、街なかではなく郊外に立地しているのではないかと考えられます。そこで、住宅地ではなく街外れのあたりに見当を付け、先ほど説明した影の向きなども組み合わせながら、場所を特定しました。

 単にあてずっぽうでは,いつまで経っても見つけられないかもしれません。このあたりは、私や古橋先生たちの専門技術や経験値がが活かせるところだと思います。

中央が破壊されたマリウポリのショッピングモール。左側には畑が続いている。(「Satellite Images of Mariupol」より)

――AIで場所を特定する技術はないのですか?

渡邉 おそらく、自動的に特定すること自体、現時点のAI技術では難しいはずです。しかしそれ以上に、衛星画像をデジタルマップに重ねながらさまざまなことを考察し、起きていることを理解すること、それを人に伝えることは、AIにはできず、ヒトにしかできないことです。

中央に見えるのが学校。周りを団地が台形状に囲んでいる。(「Satellite Images of Mariupol」より)

 たとえば、マリウポリで攻撃を受けた集合住宅の衛星画像をデジタルマップにあてはめてみると、学校を囲むように建ち並んでいることがわかります。日本でも、学校を囲むように建てられた集合住宅を良くみかけます。このことから、遠く離れたウクライナで起きていることと、日本に住む私たちの生活を重ね、自分ごととして考えるきっかけが生まれます。作業を自動化することで、こうしたきっかけが喪われてしまうのです。

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