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現地の被害状況をフラットに伝えたい

――民間の衛星画像会社はアメリカ・ヨーロッパの企業が多いので、ウクライナ寄りの情報が発信されている可能性は考えられませんか?

渡邉 そうですね。ウクライナにとって「都合が悪い」情報が排除されている可能性はあります。しかしそうは言っても、たとえばマリウポリで一般市民が暮らす市街地が大規模に破壊されていることは確実です。その情報は「どちら寄り」といったものではなく、フラットな事実です。

 私たちは、人々や街がどのような被害を受けているのか、という現地のリアルな状況のみを伝えるためにデジタルマップを作成し、公開しています。何らかのイデオロギーに沿ったものではありません。

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 デジタルマップには、ロシア軍がいったん占拠した空港にウクライナ軍が反撃を加え、ロシア軍のヘリコプターが炎上している写真も掲載されています。

ウクライナ軍の反撃により、ロシア軍のヘリコプターが炎上している(「Satellite Images Map of Ukraine」より)

 戦況はまだまだ先が読めず、今後はウクライナ軍にとって不都合な画像が配信されてくるかもしれません。その際にも、私たちは取捨選択を加えず、淡々とフラットにマップに掲載し、公開していくつもりです。

事実をシンプルにわかりやすく伝えることが自分の仕事

――公開しているデジタルマップに、何らか解説や感想を加えず、必要最低限のキャプションしか入れていないことも「事実のみを伝える」というお考えからでしょうか。

渡邉 私は情報デザインの研究者で、戦争や国際政治の専門家ではありません。事実をシンプルに、わかりやすく伝えることが自分の仕事です。ですから、元記事のキャプションに準じて、日付、場所、被写体など最低限の情報のみを記載するようしています。

「悲惨です」「許せない」といった感想・寸評などを書き添えることはもちろんできます。しかし、そうしたネガティブな感情はネットで増幅されていき、あらたな争いを生みます。

 ウクライナ現地で被害に遭われている方がみずから写真を撮り、「ロシア軍は許せない」といったメッセージとともに発信することを否定するつもりはありません。しかし、遥か離れた場所にいる私が、安全な距離から「寸評」を加えてはならないと考えています。

 先程お話したように、事実をシンプルにわかりやすく伝えることが仕事です。そこから先、どう考えてどう行動するのかは、見てくださった方の領域になります。

 デジタルマップそのものはもちろん、今回のようなインタビュー記事を通して、ウクライナで起きていることは他人事ではなく、日本に住む私たちにも密接に関わっていくことなのだ、と受け止めてくださる方がが増えていくと良いな、と思っています。

後編に続く)