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マリウポリの市街地に広がる炎、黒煙を上げるロシア軍のヘリコプター…衛星画像とデジタルマップでわかる“ウクライナ侵攻”のリアル

マリウポリの市街地に広がる炎、黒煙を上げるロシア軍のヘリコプター…衛星画像とデジタルマップでわかる“ウクライナ侵攻”のリアル

渡邉英徳さんインタビュー#1

2022/03/31
note

フェイクの衛星画像に惑わされるおそれは少ない

――衛星画像情報の信頼性はどのように担保されているのでしょうか。

渡邉 デジタル技術がこれだけ進化した現在では、フェイクの衛星画像も簡単に作れるはずです。実際に、それらしい衛星画像を作成するAI技術も公開されています。ねつ造すること自体は不可能ではありません。

 しかし、複数の衛星会社が共謀して、同じ虚偽の内容が含まれた衛星画像を配信するといった、手の込んだ仕掛けの実現性は低いですね。また、仮に一度でもそうしたことに関われば、その企業の衛星画像は誰にも信用されなくなります。かんたんにウソがつけるとともに、ウソがすぐにバレる時代でもあります。あえてフェイク画像を配信するようなことは、どの企業もしないでしょう。

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渡邉教授「はるか離れた安全な場所から、『寸評』を加えないほうが良いと考えています」

――いまや民間の人工衛星が無数に飛び回っています。軍事衛星の画像が、政府や軍だけに提供されていた時代とは違い、リアルタイムでマスメディア・ソーシャルメディアに流れてくるようになった、嘘やごまかしが効かなくなったということでしょうか。

渡邉 はい、その通りです。これは、私たちが生きている2022年の社会状況をよく表しています。

 衛星画像会社は、各国のマスメディアに配信するだけではなく、自社のウェブサイト・ソーシャルメディアでみずから発信もしています。また、利用するための条件も明確になっています。その条件に従うことで、誰にでも自由に使うことができます。こうした、オープンになっている資料・データをもとにして、事実を追及していく手法のことを「オープンソース・インテリジェンス(OSINT)」と呼びます。私たちの活動もOSINT的ですね。

 たとえば下の画像を見てください。プーチン政権と親密な関係にあるロシアの新興財閥「オリガルヒ」が所有するスーパーヨットとみられる物体が写っています。この画像はPlanet社が撮影し、再利用可能な「クリエイティブ・コモンズ」ライセンスで提供しているものです。

新興財閥「オリガルヒ」のメンバーが所有するスーパーヨットとみられる船舶(「Satellite Images Map of Ukraine」より)

 このスーパーヨットは、ロシアからは遠く離れたインド洋の孤島・セイシェル諸島に停泊しています。「オリガルヒ」は、プーチンの軍事侵攻に協力したと批判され、アメリカ国内の資産凍結や、保有する会社の取引停止などの制裁が発表されています。

「Satellite Images Map of Ukraine」より

 こうしたことから、所有者は、人目を避けるためにセイシェル諸島に停泊させているのかも知れません。しかし、地球全体をくまなく眺めることが可能な衛星の目線からは、簡単に見つかってしまうのです。OSINTの成果の一例といえます。

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