ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まった直後の2月25日から、3D加工技術と衛星画像を活用して、ウクライナの現状を世界に伝え続ける人がいる。東京大学大学院で災害や戦争の記録をデジタル地図化してわかりやすく人々に伝える研究をしている渡邉英徳教授だ。緊迫した情勢が続くなか、デジタル地図を更新し、Twitterなどで発信し続ける渡邉教授に話を聞いた。(全2回の1回目/続きを読む)
「ジオリファレンス」の手法を活かして作成したデジタルマップ
――Twitterなどで発信しているウクライナのデジタル地図「Satellite Images Map of Ukraine」は、どうやって作成されているのですか?
渡邉英徳教授(以下、渡邉) マイクロソフト社の提供する地図検索サービス「Bing Maps」をベースに、民間の衛星画像会社が提供している高解像度の画像をぴったりあてはめて作成しています。この手法を「ジオリファレンス」と呼びます。
とくに多く利用しているのは、アメリカのマクサー・テクノロジーズ社の画像ですが、ほかにも数社の衛星画像を活用してデジタルマップをつくっています。マップの表示には、オープンソースの「Cesium」を用いています。青山学院大学の古橋大地先生と共同で進めているプロジェクトです。
――なぜデジタルマップ化されているのでしょうか。ただ衛星画像をアップするのとはどこが違うのですか?
渡邉 街中に黒煙が上がっている写真や、爆破されて崩壊した建物の写真などはテレビのニュースでもよく目にします。しかし、それでは「ひどい被害だ」という一面的な印象しか伝わらず、背景や文脈が失われてしまう危惧があります。その点を補うために、デジタルマップ化しています。
「どんな場所が攻撃を受けたのか」でロシア軍の動きも読める
たとえば、この3月19日のマリウポリの衛星画像を見てください。真ん中の黒い部分は工場地帯です。ですから、攻撃目標になることはわかりますが、実際にオレンジ色の火災が発生しているのは、工場地帯の周辺の市街地です。
なぜ市街地が攻撃されたのかということを考えるために、衛星画像単体ではなく、周辺の状況を知ることが助けになります。
たとえば、これはウクライナの首都キーウの北東120kmほどにある街、チェルニヒウの画像です。この画像をデジタルマップに載せてみると、攻撃を受けた場所は太い幹線道路沿いであることがわかります。
さらに広域を俯瞰してみると、ロシア軍は、幹線道路沿いの市街を攻撃しながら侵攻しているのではないか、ということが推測できます。デジタルマップで確認すると、チェルニヒウはキーウにつながる幹線道路沿いに所在していることがわかります。ロシア軍は、チェルニヒウなど周辺の街を制圧し、キーウを包囲しようとしていることも読み解けるわけです。
複数の衛星画像をデジタルマップに載せることで、こうした考察や推測が得られるのです。