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「あんたは本当に腕がないね」

 憧れの人とバレンタインデーに会えた時も、手作りのチョコレートが渡せず、何も言えなかった。先生には大いに呆れられた。私もあのときのことはものすごく後悔している。

 どうしてか、傷つきたくないと思って、自分を守ることを優先してしまう。プライドが高いのか、思いっきり相手にぶつかることができない。結局相手の気持ちなんてわからないのに、あれこれ考えて答えをだして、やめてしまう。考えても結局、悪いほうにしか考えられないのに。

 私は一見あっけらかんとしているように見えるけれど、とってもネガティブで悪い方向にしか考えられず、自己肯定感がものすごく低い。ぐずぐずしている私に先生は、「まさかこんなにダメだとは思わなかった」と何度もあきれていた。そして、いつも「あんたは本当に腕がないね」と言われる。きっと先生は、次々と相手が変わるぐらい積極的なほうが、見ていて楽しいのだと思う。

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 クリスマスも何度先生と過ごしただろう。尼寺にクリスマスなんておかしいね、と言いながらターキーを頬張った。私はそのとき先生がサンタさんの顔の刺しゅうが入った靴下を履いていたのを見逃さなかった。

 先生の前で何度か泣いたことがある。恋愛で苦しい思いをしたときや、別れたときは必ず先生に慰めてもらった。「もう飲むしかない!」と言って昼からウイスキーをすすめてくれて、「あんたはいい女だよ、私が認めるくらいなんだから! その男はあんたに怖気づいたんだよ!」と何度も励ましてくれた。

 その度に、私には先生がいて本当によかったと心から思えた。

 私が心底傷ついて悲しんでいるときは、忙しくても励ましてくれるし、一緒にお酒も飲んでくれる。「私には先生がいるんだから、あんな奴いらない!」と思える。

 でも先生はおしゃべりなので、話したことをすぐ他人に言いふらす癖がある。人に言われたくないことは毎日のように、「内緒ですよ」とくぎを刺した。言い過ぎかというくらい口止めしないと本当にばらされる。私のプライベートは見世物じゃない! 先生に言ったことを何度後悔しただろう。

「寂庵ニュースっていってね、ここではすべて公になるんだよ」

「言わないでって言ったことは、言ったらダメなんです。わかります?」