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「不倫の何が悪いのか」“恋多き女”瀬戸内寂聴の、自分とは正反対の秘書に向けた“真剣な怒り”の言葉

『寂聴先生、ありがとう。 秘書の私が先生のそばで学んだこと、感じたこと』より #1

2022/04/01
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 99年の生涯にわたって、女性の恋愛や生き方を描く小説を書き続けた作家・瀬戸内寂聴さん。秘書の瀬尾まなほさんは、2011年に寂聴さんが営む寺院・寂庵に就職して以来、誰よりも近くで寂聴さんと過ごしてきました。

 ここでは、瀬尾さんが寂庵で「先生」と過ごした日々を綴った『寂聴先生、ありがとう。』(朝日新聞出版)より一部を抜粋。正反対の二人の恋愛観が伝わってくる「忘れられない、先生の一言」を紹介します。(全2回の1回目/後編を読む)

瀬尾まなほさん(写真左)と瀬戸内寂聴さん(写真右)©朝日新聞出版

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忘れられない、先生の一言

「人生は恋と革命だ」と先生は常に言う。先生は自身が恋多き女であり、不倫も繰り返してきた。過去のすべての男の人をいい男だったと言い、死んであの世で会うとき誰に最初に声をかけようかなど迷っている。

 先生は私たちに貞操観念がないと言う。先生の時代では男女が目を合わせるだけでも注意されたという。恋愛結婚なんてほとんどなく、お見合いでみんな結婚していた。

 先生は、北京に行けることと、お見合い時の相手の白のスーツがかっこよかったという理由で、9歳年上の学者の卵と結婚した。その結婚は5年も続かなかった。家を出るきっかけになった4歳年下の男性とも結婚に至らず、そのあと誰とも再婚せず恋愛を繰り返していた。世間では波瀾万丈の人生を送ったと言われているが、当の本人はそうでもないという。

「大変苦労されたでしょう」とよく言われるけれど、自分ではそう思ったことが一度もないそうだ。いつでも必死だったから、そのとき大変だとか思う余裕がなかったと。

 先生は私を見て思うことがたくさんありそうだ。私が来てから、どんな真新しい恋愛事情が聞けるかと楽しみにしていたのに、全くさっぱりで。

 確かに先生の時代に比べて私たち若者はとても自由。なにしたってかまわない。

「人生は恋と革命だ」と大声で叫ぶ人の一番そばに私はいるのに、何も革命できていない。「100冊の本を読むよりひとつでも本気の恋愛をしなさい」と言う先生のそばで恋愛より本を読んでいる。

 寂庵に来たころは、大学のときから付き合っていた彼がいて、先生が会ってくれたこともある。その彼とはほどなくしてお別れし、私も何度か「好きかも」と思える人がいたけれど、考えすぎて何も行動が起こせずじまい。私のこの煮え切らない性格は、先生をイライラさせた。