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「不倫の何が悪いのか」“恋多き女”瀬戸内寂聴の、自分とは正反対の秘書に向けた“真剣な怒り”の言葉

『寂聴先生、ありがとう。 秘書の私が先生のそばで学んだこと、感じたこと』より #1

2022/04/01
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瀬尾さんを救った先生の一言

 先生はいつも何事にも全身全霊で挑んでいたし、中途半端なことはしなかった。後先考えず突進していく強さもあったし、行動力もあった。それに比べて私は……。先生のそばにいると自分のダメなところがどんどん浮かび上がってきて、なんとも言えない気持ちになる。先生のそばにいるのに、こんなダメダメな自分が時々ものすごく嫌になる。

 就職活動で一気に自尊心や自信をぺちゃんこにされた私は、先生によって救い出された。秘書という立場を与えてもらい、テレビや新聞にも出させていただく機会も増えた。先生によって私が輝ける機会を何度もいただいた。なのに自分に自信が持てずにいた。

「私なんか……」とあるとき言った瞬間、先生の目つきが急に変わった。

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「私なんかというような子はここにはいらない。私という人間はこの世に一人しかいないのよ。たった一人の自分に対して『私なんか』なんて言うのは失礼。そんなこともう二度と言わないで!」と怒られた。

 その瞬間すごくびっくりしたけれど、それと同時にとてもうれしかった。涙がでそうなくらいうれしかった。自分のことを粗末にしたことを怒ってくれたこと、心がじんわりした。怒られてうれしかったのは、この時が最初で最後かもしれない。

 この言葉は私の頭から一生離れないだろう。こんなにうれしいと思った言葉を言われたのは初めてで、自分のために真剣に怒ってくれたことも、めちゃくちゃ幸せに思えた。

 あ、私また先生に救われた、そんな瞬間であった。

「不倫の何が悪いのか」“恋多き女”瀬戸内寂聴の、自分とは正反対の秘書に向けた“真剣な怒り”の言葉

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