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「不倫の何が悪いのか」“恋多き女”瀬戸内寂聴の、自分とは正反対の秘書に向けた“真剣な怒り”の言葉

『寂聴先生、ありがとう。 秘書の私が先生のそばで学んだこと、感じたこと』より #1

2022/04/01
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「そんなに言われたくないなら、ここを辞めたら?」

 と極端なことを言ってきたりする。先生、ずるいよ。先生だから本音を話す人ってたくさんいると思うのに、こんなにツーツーになっているの知ったらショックだろうなぁ、と幾度となく思った。昔の編集者も「瀬戸内さんに話すということは、マイクの前で話すのと一緒」と言っていて、「うまいこと言うなぁ」と共感した。

おしゃべりな瀬戸内寂聴さん。しかし瀬尾さんは「先生がいて本当によかった」と心から思ったという。©朝日新聞出版

瀬戸内寂聴先生の恋愛観

 一度、ある男の子と仲良くしていることを内緒にしていたことがあった。先生は私が何もかも言うと信じて疑っていなかったので、その彼とお別れして泣きついたときは、慰めとともに少しショックを受けていた様子だった。それから、「この子は何しているかわからないから」と疑われるようになってしまった。

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 先生は不倫の何が悪いのかと言う。恋はカミナリと同じ。自分に落ちてしまったら仕方ないじゃない、と。ただ、不倫相手に妻との別れを迫ったりすることはダメだと言う。相手に家族がいることを知ったうえで付き合うのだから、それは図々しいとのこと。

 先生は基本ダメ男が好きで、どうにかしてあげたくなるような人がタイプだとか。一人でも生きていけそうな人には関心がないようだ。先生は男らしい性格なんだと思う。そこらの男の人よりたくましいし、かっこいい。そして小さいことにはこだわらないし、細かくない。優しいし、尽くすし、よく働くしと、まるで男性にとっての理想の女性! 女性のかがみ!

 先生は不倫相手の妻にも、嫌われたり、憎まれたりすることがない気がする。不倫相手の子どもにとっては目の敵なはずの先生が、その子どもたちと仲良くしていたりもする。その子が今は才能ある小説家になり、自分の父と母、そして父と不倫していた先生のことを書いた(井上荒野『あちらにいる鬼』)。先生はやっぱり言い表せない程の魅力があるんだ。

「基本、相手に期待しないのよね」とさらっと言った先生に、私は「かなわないな」と思った。本当にさっぱりしている。私なんて勝手に期待して、勝手に落ち込んでいるから。

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