そして、それから数日後、被害女性のうち2人が、俳優の木下ほうか氏からも性的強要があったことを告白し、演技指導をうたって自宅に来るよう指示したり、性行為を拒絶した女性に対して「育ててあげようと思って期待していたのに残念」「みんなやっている」と弱みにつけ込んだうえで性行為に及ぶなど、その卑劣な手口が報じられた。
ここで明確にしておきたいのは、被害を受けた人たちに非や原因はまったくなく、悪いのは100%、加害者であることだ。「こうしていれば被害に遭わなかった」と口に出すことは簡単だが、そんなものはあくまで結果論である。誰かに危害を加えようとする人間は、どのような対策をしようと、目的のためにあの手この手を使おうとする。正すべきは被害を受けた側の振る舞いではなく、そうした加害を生んでしまう閉鎖的な業界構造(監督が一人の判断でキャスティングを行う権限を持っていることなど)であるはずだ。
自分だけで悩むのではなく、誰かに相談してみると良い
残念ながら、いくら世間から称賛されるような人格者でも、尊敬できる優しい上司でも、頼れる先輩であっても、悪意を持って(悪意を自覚していなくても)自分の思うままに誰かを利用したり、欲望を満たそうとすることがある。自分が大人になった今は、完璧な大人など存在しないのだと思うようになった。自分より人生経験が多いだろう年長者の言うことは正しくて、言う通りにしなければいけないのだと信じていたから、傷付けられた痛みを自分で認めてあげられるようになるまで、何年もかかってしまった。何年も辛いまま、それでも自分の傷から目をそらし続けてしまった。
僭越ながら今年も、新入社員向けのメッセージ的な文章を執筆する機会をいただいてしまった。私から何か伝えることがあるとすれば、これくらいだと思う。もしも誰かに傷付けられてしまったときは、自分が感じている痛みを疑ったり、隠したり、誤魔化さないで、ありのまま受け入れてあげてほしい。そしてできるなら、自分だけで悩むのではなく、友人でも家族でも恋人でも、誰かに相談してみると良いかもしれない。物事を主観的に見るのと、客観的に見るのでは違う発見があると思う。
私は社会に出てから、友人たちに本当にたくさん助けられてきた。友人が話を聞いてくれなければ、私は役員男性の言動がおかしいと気が付けなかったかもしれない。あの場所から逃げるようアドバイスをくれた友人には、今でも感謝してもしきれない。