もう7年ほど前になってしまったけれど、新入社員だった頃、自分はいろいろなことにとらわれて自分を蔑ろにしたり、頑張りすぎたりしていたように思う。

「いろいろなこと」というのは、「正しさ」だったり「他人の価値観」だったり「他人からの評価」だったりするのだけれど、大学を卒業して会社に入ったばかりの自分には右も左もわからず、まるで初めて見た相手を親だと思い込む雛鳥のように、無条件に「大人たちの言動はすべて正しいのだ」と信じきってしまった。

多少の理不尽さや疑問を感じても、耐え忍ぶしかなかった

 信頼できる人間がいることは、とても良いことだ。ただ、その信頼や純粋さ、懸命さに付け入って、若者たちをストレスや欲望のはけ口にしようとする人間が身近にいるかもしれないことは、知っておきたかったとも思う。私自身、信頼していた大人に傷付けられてしまった経験が少なくない。

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 自分に向けられた悪意を察知することは意外に難しくて、数年経ってから「ひどい目に遭わされた」と気付く、なんてことが当たり前に起きる。

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 自分は新入社員の頃、新しい生活や環境に気持ちがたかぶり、早く仕事を覚えたいとか、先輩たちと仲良くなれるよう頑張ろうとか、例に漏れず、新入社員なら誰でも経験していそうな「ハイ」な状態にあった。頑張らなければ、と無我夢中になるあまり、多少の理不尽さや疑問を感じても、「そういうものなのだろう」と自分を納得させて、ただ耐え忍ぶしかなかったことも少なくない。

勇敢な同僚は1万円札1枚を顔面に投げつけられ…

 例えば、私が入った会社では残業手当が付かず、当然のように休日出勤があるのにその手当も付かなかった。あまつさえ、有給を取得すればなぜか給与から5000円を天引きされる謎のシステムまであったのに、先輩や上司も「そういう会社だから」と従服姿勢を貫いていた。はずれくじを引いてしまった自分を呪うくらいしかできなかった。

 過去に労働基準監督署に内部告発をした社員がいたそうだが、調査に訪れた職員をうまく騙くらかして摘発を逃れたらしいことが代々伝えられていたために、法律をもって解決を図ろうとする社員が現れることもなかった。ちなみに社員たちが見守る中、邪智暴虐の会長に直接「どうしてこの会社は残業代が出ないのですか」と訪ねた勇敢な同僚は、1万円札1枚を顔面に投げつけられ、大声で「今までの分だよ!!」と怒鳴られ、翌日から会社に来なくなってしまった(足りないからなぁ)。