文春オンライン

突如として襲った自律神経の病…「死の恐怖さえ感じるようになっていた」川﨑宗則を救ったイチローの“ある言葉”とは?

『「あきらめる」から前に進める。』より #2

2022/04/05
note

また野球をしようと思わせてくれたイチローさん

 そんなイチローさんの姿を目の当たりにして、中学時代に感じていたことを思い出していました。「この人のおかげで、僕は野球が心底好きになり、野球選手になれたんだ」と。野球をやめてからはもうイチローさんに会うことはないだろうと思っていたので、改めて一緒の時間を過ごし、「また野球をやってみたい」と思えるようになっていました。

 自主トレに参加させてもらったのは1日だけで、練習が終わったあとそのまま福岡に戻りました。翌日から3日間は動けませんでした。久々に本格的に野球をやったんですから当然ですけどね。練習中はイチローさんと一緒なのでアドレナリンも出ていたし、守備も、バッティングもひと通りやれたけど、翌日は体中が痛くなって本当にキツかったですね。

 この体の痛みに苦しんだ3日間で、自分の中でやる気が湧き上がりました。そして「もうちょっと動けるようになろう!」というか「イチローさんの練習をもうちょっとできるようになりたい!」「もっとイチローさんの相手ができるようになりたい!」という気持ちが芽生え、そこからトレーニングに力を入れるようになりました。以前のように、ほぼ毎日トレーニングする生活を過ごせるようになった感じです。

ADVERTISEMENT

笑顔を見せるマリナーズ時代の川﨑とイチロー ©文藝春秋

 トレーニングを本格的に再開するだけでなく、トレーニングについて調べたり、勉強もし始めました。以前は個人トレーナーをつけていたんですけど、野球をやめてひとりになっていたので、自分の感性というか、自分が感じたものでトレーニングをしていこうという気持ちになり、以前からトレーニングについて教えてもらっていた有くん(ダルビッシュ有投手)に連絡して、相談に乗ってもらいました。有くんも喜んで協力してくれて、「ムネさん、これがいいから飲んでみてください」とか「ムネさん、トレーニングはこうしてください」と、いろいろアドバイスしてくれ、質問に対してもすべて納得がいく答えを返してくれました。

 そうやってトレーニングを続けていくうちに、自分に必要なトレーニングというものも見えるようになってきて、さらにトレーニングに明け暮れました。体を動かせば自然と気持ちも上がってきますから、前向きにもなれましたね。

 最終的に、僕にまた野球をしようと思わせてくれたのはイチローさんでしたが、そこには自律神経の病気になり、生きることを選択し、一度野球をやめようと決断した「あきらめ」があったんです。理想をあきらめて一度白紙にできたからこそ、再び前を向いて野球と向き合う気持ちになれたんです。

前編を読む

「あきらめる」から前に進める。

川崎 宗則

KADOKAWA

2022年3月17日 発売

突如として襲った自律神経の病…「死の恐怖さえ感じるようになっていた」川﨑宗則を救ったイチローの“ある言葉”とは?

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー