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突如として襲った自律神経の病…「死の恐怖さえ感じるようになっていた」川﨑宗則を救ったイチローの“ある言葉”とは?

『「あきらめる」から前に進める。』より #2

2022/04/05
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 ところが1軍に上がっても良くなる気配がまったくありませんでした。相変わらず眠れない日々が続いていたので疲れはとれないし、お腹がすいた状態もずっと続きました。時には、試合中でさえ何か口に入れたくなってしまうような気持ちが起こっていました。体力的にもどんどんキツくなっていきましたね。

試合から離れても体調が改善せず

 そんな状態でプレーを続けていたんですが、やはり体が悲鳴をあげてしまいました。両足のアキレス腱に痛みが出てしまったので、登録を抹消してもらい、まずは体調を戻すことに専念しようと思っていたのですが、試合から離れても改善する様子はまったくありません。

 僕としては何とかアキレス腱を治そうと頑張っていたんですが、なかなか痛みが消えないし、アキレス腱だけじゃなく体のあちこちも痛みを感じるようになり、思うように力も入らなくなってしまいました。今振り返れば、自律神経が正常に機能しない状態になっていたんだと思います。その頃になるとただ眠れないだけじゃなく、足を切断される夢を何度も見るようにもなっていました。

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 リハビリを続けることで本当にアキレス腱が良くなっているのかもわかりませんでした。それに痛みが多少和らいだところで、体を動かすたびにまた痛みが出そうな不安にも襲われていたし、体の内側からくる原因不明の痛みも消えなかったですね。それでも何とか2軍戦に復帰したのですが、すぐにまたアキレス腱の痛みが再発してしまったのです。

川﨑は「死の恐怖さえ感じるようにもなっていた」と語る ©文藝春秋

生きることだけを考えた選択

 もう時差ぼけが原因でないことはわかっていましたし、ただアキレス腱を治療するだけでは解決できないものだとも感じていました。これまでの僕の野球選手としての経験ではまったく対処できませんでしたし、本当にどうしようもありませんでした。アキレス腱の痛みが再発した時点で、僕の中で何かが崩れていった感覚がありました。このままじゃ元に戻ることはないだろう、もうこれ以上プレーできないって……。

 すでに自分の中では、死の恐怖さえ感じるようにもなっていました。とにかく生きたかった。そんな必死な思いだったから、とにかく野球から一旦離れよう、体を動かすこともやめようと決断することができました。

 妻も、僕がちょっと普通の状態ではないことを感じていたと思います。病院に行って診てもらおうと考えていることを打ち明けたところ、「すぐに診てもらった方がいいよ」と背中を押してくれました。それまで僕の中ではまったく無縁の存在だった心療内科の先生を訪ね、眠れないことを正直に伝えたところ、すぐさま入院を勧められました。

 今考えても、自分がどうしてあそこまで追い込まれてしまったのか、何が原因になったのか、まったくわかりません。これまで何でも自分で考え、工夫しながらやってきましたが、冷静に判断できる精神状態でもありませんでしたし、前を向けるような気力もありませんでした。

 ただただ生きることだけを考えた選択でした。