アキコさんはこの頃、精神症状が出ていた。心的外傷後ストレス障害と解離性障害の診断を受けることになる。
「自分の記憶は抜けていることがあります。起きたら部屋がぐちゃぐちゃだったことがあります。自分が自分じゃない感じでした。中3のときにはっきり気づいて、母親に『自分のなかに誰かいる』と言ったことがあります。自分がコントロールできない。記憶が飛んじゃう」
このとき、母親も驚いた。
「娘が暴れて、顔を引っ掻かれたことがあったんですが、娘が『どうしたの? その顔』と言ったんです。『あなたがしたんでしょ?』と聞いたら、娘は『何言ってるの? そんなことしないし』って。『あれ?』と思って病院に電話したら、解離性障害と言われました。自分が自分じゃない状態だったり、本人に記憶がないことがあると言われて初めて、症状だったんだと思いました」
結局、保護者が承諾書にサインしなかったことで調査は中断する。この調査は2020年1月、「いじめ重大事態として報告した事案についての報告」として市長に報告された。小学校や中学校でのいじめを指摘しつつも、「性的嫌がらせ」は確証がないとされた。また、「加害生徒」の欄は「不明」だった。両親は、市に対して第三者による調査を求めた。
「いじめがなければ、別の人生があったと思います」
一方、アキコさんは、中学を卒業した後は高校に通ったが、2019年7月末に自殺未遂をした。
「あまり覚えていないんですが、警察には『死にたかったから』と言ったそうです。実は、それ以前にも、自殺未遂をしています。多分、10回は。首を吊るためのロープを買ったり、練炭を買いに行ったり……。小5のときも、飛び降りをしようとしました。中1のとき、担任の前で3階の教室から飛び降りようとしたこともあったんです」
担任はそのとき、「やめてくれ」と言ったようだが、開示された資料にはこのことが記載されていない。少なくとも、この時点でも「重大事態」とされてもいいが、いじめの聞き取りがなされることはなかった。アキコさんは、再調査をどう思っているのか。
「最初、私としては、いじめの調査はどうでもよかったんです。正直、自分のためなら今更という思いでした。でも、『今後に生かすためもあるんだよ』と母親から言われて、納得しました。だって、学校に自分と同じような対応をされる人が出てくるのは嫌だから。いじめがなければ、別の人生があったと思います。でも、転校したことで他の仲良い子たちと出会えた。それには感謝しています。ずっと同じ学校にいたら、死んでいたと思います」