令和2年、若年層10代の自殺者数は777人と過去最多を記録した。その自殺の原因のトップは「学校問題」――いったい子どもたちを取り巻く環境に何が起こっているのだろうか? インスタグラムをきっかけとした「熊本・高3女子いじめ自殺事件」から現代のいじめの本質に迫る。(全2回の1回目。後編を読む)
※本記事では深草知華(ともか)さんのご両親の許可を得た上で、知華さんの実名と写真を掲載しています。「同じ悲しみで苦しむ子供たちを救えるような環境に変わってほしい。一人でも多くの方々にこの問題に関心を寄せてもらいたい」というご両親の強い思いを受け、編集部も、知華さんが受けたいじめの実態を可能な限りリアルに伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。
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もう死にたいと思った
2018年5月17日、熊本県北部のある町で、祖母が首をつっている高校3年の孫の姿を見つけた。女子高生の名前は、深草知華(事件当時17歳)。142センチの小柄で、先輩後輩問わず好かれる、愛嬌のある子だった。
この日、彼女は通っていた高校で、インスタグラムへの投稿による「誤解」がきっかけとなって同級生とトラブルになった。その後、「頭が痛い」と言って3時間目の休み時間に早退、帰宅後わずか一時間の間に彼女は戸棚の取っ手に縄跳びの紐を通し、縊死したのである。
知華は遺書の最後に次のように記している。
〈昨日起きたある誤解により、3の2のある一部の人たちから、「そんなことしきらん」「よー学校これるね」「もー自分のことって気づいてんじゃ?」「しねばいい」「おもしろくなってきた」など言われた。誤解なのに。その一部の人たちが、おもしろおかしく笑いながらそういうことを言っていた。とても苦しかった。解決したと思ったらその人たちがコソコソとしてる。
授業が終わったあと、友だちは去っていった。1人の子と一緒に担任の所へ行った。だれも助けてくれなかった。
もう死にたいと思った。だって死ねばいいって言われたから。
クラスのみんなが大好きだった。いつもアリガトウ〉
事件後、「熊本県いじめ防止対策審議会」が結成されて関係者に対する聞き取り調査が行われ、同級生の発言など5件をいじめと認定し、自殺との因果関係を認めた。現在、亡くなった生徒の遺族は、当時の同級生4人を相手に提訴している。
彼女のいう「誤解」にはどんな背景があったのだろうか。
その人間関係と言語環境をつまびらかにすることは、現代の若者たちのおかれたリアルな環境、自殺問題の本質を理解するうえでの大きな公益性があると筆者は考える。本稿の記述は、取材の過程で入手した「熊本県いじめ防止対策審議会」が作成した調査報告書や関係者取材などに基づいている。
おとなしく控えめな性格だった
深草知華が生まれ育ったのは、熊本県北部の人口5万人ほどの町だ。かつては炭鉱で栄えたが、今は産業と呼べる産業はなく、高齢化が進んでいる。
2000年、トラック運転手をする父親と、2歳年上のパート勤めの母親のもと、深草知華は長女として生まれた。海に面した母方の実家に隣接する一軒家で暮らしており、他には6歳下の弟がいる。