アキコさんは、学校での相談でいじめのことを十分に聞かれた記憶がない。そればかりか、学校へ行けないのは家庭のせい、と言わんばかりの対応が続いた。そんな中、7月、授業中にハサミでリストカットをした。
「自傷行為は小5の頃からしていました。同級生に『なんで切るの?』と聞いたんです。すると、『嫌なことがあると切る』と言っていたのを思い出したんです。それから頻繁に切るようになりました。ただ、この頃は手首ではなく、足の部分でした。手首だと周囲にバレてしまいますし。ピアスも開けましたよ。初めの頃はファッションでしたが、途中から自傷の意味でやるようになりました」
ただ、いじめと違ってアキコさんのリストカットは問題になった。授業中だったためだ。翌日、母親が学校に呼び出された。養護教諭からは「娘さんが赤ちゃん返りをしている。話を聞いてあげる環境を作ってはどうか?」と言われた。
「このとき、学校でのいじめの話は出ず、学年主任には『お母さんね。これは、私を見て、と言っているんですよ』と言われました」(母親)
このときのことをアキコさんが振り返る。
「そんな感じじゃないですよ。もし、見てほしいなら、それ以前から母親に見えるところを切っていますよ。このころはもう癖になっていたんです。嫌なことがあった。じゃあ、切ろう、と思うようになっていたんです」
その後、アキコさんは転校を希望する。学校側はいじめを理由とすることを認めず、「住所変更」ならば転校ができると勧めてきた。そのため、中1の2学期から「住所変更」での転校となった。しかし、転校先に加害者Aの従兄弟がいたことから、いじめが続く。そして、不登校になった。
「これ以上、調査するなら承諾書にサインをしてほしい」
両親は2017年4月ごろから、アキコさんへのいじめについて、転校前の中学校に調査を訴えていた。その後、面談を繰り返し、両親が第三者による調査を要求した。しかし、第三者による調査は行われず、市教委指導課職員2人と教頭でアンケート調査や聞き取りを進めていく。当時、調査の方針についての説明はなかった。しかも、その中で不可解なことが起きる。主治医からは「何らかの性的被害を受けているだろう」との見立てがあった。そして、「アキコさん自身から話せる時が来る」というので、関係した教員への聞き取りを先に進めることになった。
ただ、市教委作成の「いじめ重大事態に関する生徒への聞き取り調査について」とのタイトルの承諾書に署名を求められた。治療の妨げにならない配慮のほか、調査をすることで症状が悪化したり、SNSなどでの誹謗中傷、直接苦情が寄せられるリスクがあるとする内容だ。母親はこう述べる。
「小5のときの性的嫌がらせについて、今ある情報で調査をしてほしいと言ったんですが、『これ以上、調査するなら承諾書にサインをしてほしい』というのです。ただし、この承諾書に名前を書いたとしても、加害側の親が承諾しないと聞き取りはできません。加害者の親がこんな承諾書にサインをするわけはないだろうと思い、私としても、サインしませんでした」