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〈キリル1世はロシア第二の都市サンクトペテルブルク出身。ソ連時代にはKGBの工作員だったとの噂も絶えない。プーチンは自らの出身地であるサンクトペテルブルク出身者やKGB時代の同僚らを引き上げており、キリル1世が2009年にロシア正教会トップの地位を射止めた理由はそこにあるとの見方もある。〉

 さらに、聖職者でありながらクレムリンの宮殿内に住んでいるとされ、豪奢な生活ぶりが問題視されたこともある。

モスクワ総主教のキリル1世

〈キリル1世が総主教になる前に面識があった欧州のある外交官は同氏について、「現実主義者で柔軟、聖職者というよりは出世欲の強い官僚のようだった」と評する。3万ドルのスイス高級時計ブレゲを身に着けている写真が出回り、釈明に追われたこともある。他の政権幹部と同様に、プーチンに忠実な部下のような横顔も浮かんでくる。〉

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核兵器を「祝福」

 プーチン大統領と一体になって権力をふるうキリル1世は、およそキリスト教の教えにふさわしくない言動を繰り返す。他の聖職者たちに闘争を呼び掛けたり、戦争で使われる武器を「祝福」しているというのである。古川氏はこう指摘する。

〈キリル1世はプーチンの統治を「神による奇跡」と評し、聖職者でありながら、ロシア安全保障会議にもたびたび出席する。(中略)キリル1世は親欧米に転じたウクライナの政権を「邪悪」と呼び、聖職者に事実上の闘争を呼びかけた。

 ロシア正教会は軍と関係を深めており、2020年にはモスクワ郊外に祖国の防衛者を讃えるロシア軍主聖堂を創設した。聖職者が聖水を振りまきながら、核を含む兵器類や兵士を祝福する伝統もある。〉

 一方のプーチン大統領もキリル1世には全幅の信頼を寄せ、「信仰心」の篤さをアピールしている。

〈プーチンはかつて「宗教と核の盾がロシアを強国にし、国内外での安全を保障する要だ」と語ったことがある。自由・民主主義を柱とする欧米の価値観に対して、専制体制を敷くプーチンは、ロシアの精神的な支柱としてロシア正教会を後押しし、政権の求心力にしてきた。自ら頻繁に教会に姿を見せ、復活祭は政権幹部が揃ってモスクワの教会で祝う。〉