「プロ第1号のイメージ」はすでにできている
さて、昨シーズンから石川雅規に定期的に話を聞き続けている。そして今年もキャンプから開幕、そして現在に至るまで密着取材は継続中である。ある日のインタビューにおいて、ふとしたきっかけで「打撃論」についての話題となった。
プロ21年目、42歳を迎えた今、改めて「もちろん今でもホームランを狙っていますよね?」と尋ねると、石川は「もちろんです!」とキッパリと言い切った。続けて、「どんなホームランを思い描いているんですか?」と尋ねてみる。
「ホームランのイメージはもうできています。やっぱり、打つならば神宮球場でしょうね。具体的には右ピッチャーのスライダーが真ん中低めに入ってくる。そこをちょっと泳ぎながら、上手にすくい上げる。打った瞬間は、“あっ、しまった”という感じなんだけど、打球は意外と伸びてギリギリでスタンドに入る。もちろん、風はフォローです。そうじゃなければ入りません(笑)」
石川の脳内では、かなり具体的なイメージが描かれているのである。調子に乗って、「バンテリンドームのような広い球場で、相手外野手の前進守備の間を抜けてボールが転々としている間にランニングホームランなどもあるのでは?」と水を向ける。
「ホームインの瞬間にバック転したいですね」
「いや、それはないですね。ランニングホームランは下半身のコンディション不良につながる恐れがあるので、打球が抜けてもツーベースでやめておきます(笑)」
雑談ならではの気楽さで、話はさらに飛躍することになった。石川が言う。
「スタンドインした中を悠々とホームベースに向かいたいですね。相当、気持ちいいでしょうね。気持ちとしてはホームインの瞬間にバック転したいですね。まぁ、それは無理なのでバック転は秋山(幸二)さんに任せるとして、本当は嬉しいのに冷静なふりをしてホームインしたいですね。内心ではめちゃくちゃはしゃぎながら(笑)」
この言葉を聞いて以来、マウンド上のピッチングだけではなく、今までよりもさらに石川の打席が楽しみになった。打者有利で、投手には不利な典型的な「ヒッターズパーク」である神宮球場。ここで石川が投げる際には常にバックスクリーンにはためく球団旗を気にすることが習慣となっていた。しかし、今季は石川が打席に入る際にも風向きを気にするようになった。
「パンチ力はないけど、タイミングが合って風に乗ればスタンドインは可能です」
こう言い切った彼のバッティングにもぜひ注目して、今季の石川雅規の雄姿に声援を送りたい。「もしも、石川がホームランを打ったら……」、そう考えるだけで無性にワクワクしてくるではないか。これまで、多くの不可能を可能に変えてきた男の「密かな野望」。その実現をしっかりと見届けたい。そんな思いで、今日も球場に向かうのだ。
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