「製麺機オタク」への道
そして、ここからがすごいところだが、大衆立ち食いそば屋になったからといって、手を抜くことは微塵も考えなかったことだ。さらに面白いのが最新の製麺機を使っていくと、手打ちの時代には気がつかなかった発見が多かったという。石月さんは試行錯誤で作る様々な粉の配合や麺線のデータを蓄積していった。「製麺機オタク」といってもいいくらいに夢中になったそうだ。そして、製麺機と手こねを合わせる方法や、つながりにくいそば粉の対処法とか、普通のそば粉でもおいしくする方法もわかってきたという。
「あきば」では、1日5食限定で「十割そば」800円を販売しているのだが、以前は手打ちの店の時と同じ麺の太さ1.8mm、茹で時間1分25秒と頑固に決めていた。しかし、製麺機を使って試行錯誤していくと、自分が好んで使っているそば粉は2.0mm、茹で時間3分のやや太い麺の方がそばの香りや味が良いことに気がついたという。しかも、練り・荒のしを手で、仕上げのし・包丁切りは製麺機でやるという。麺を変えていったことで徐々にお客さんが増えて行ったという。
「完全なそばバカ」
そんな話を聞いていると、仕入れ先の須賀商店の須賀謙一郎さんが秋田産の新そば粉を納品にやってきた。須賀さんいわく、「石月さんは品質に厳しい」、「手打ちから大衆立ち食いを始めた人は他にいない」、「完全なそばバカ」だと。
「あきば」で食べるそばは確かに洗練されている。つゆも高級なかつお節を使って引いた本格的なもので、老舗の味とでもいえばいいのだろうか、上質である。温泉玉子、もやし、わかめ、たぬきなどが載った「冷やかけあきばそば」560円は他では見ないメニューで人気である。しかし、「天ぷらそば」410円、「もりそば」360円、「かけそば」310円と大衆立ち食い価格で提供しているし、天ぷら種も春菊やかき揚げなど立ち食いそば屋のラインナップだ。