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「もんじゃ さとう」の衝撃とソーシャル化するレストラン――2017年のグルメ界を総まくり #2

「もんじゃ さとう」の衝撃とソーシャル化するレストラン――2017年のグルメ界を総まくり #2

2017/12/29
note

レストランがソーシャルな場になった

 全体的な傾向として、新店に火がつくのが早くなりましたね。オープンしてそんなに日が経ってないのにあっという間に人気店になって予約が取れなくなる。しかも、Facebookよりも食べログよりも、インスタの方がおいしい店の情報が回るのが早いです。グルメな人のアカウントをいくつかフォローしておくと、彼らが同じ時期に行ってる店を知ることができます。そういう店はまず外しません。

 食メディアには殆ど載っていなくて、インスタだけで盛り上がってる店があるような気がしますね。ちょっと前でいえば、インドシナ料理「アンドシノワーズ」がそうでした。最近は雑誌にも登場されていますが、最初はインスタグラムでしか情報を見かけなかった。

編集部 今年はロングテーブルや、コの字カウンターの店が多くなった気もしています。ふたりで来ても独立したテーブルではなく、いきなり長テーブルやコの字カウンターのここに座ってくださいといって、全然知らない人の中に放り込まれるとか。

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小石原 たしかに。外苑前に移転した「」や、白金高輪「福しま」や広尾の「オード(Ode)」、白金の「酒肆ガランス」もそうですね。

2017年後半の新店「オード」
一皿目からびっくりさせられる

編集部 だからレストランがプライベートでお酒を楽しむ場じゃなくて、知らない人とワイワイガヤガヤ楽しむソーシャルな場所になってるような気がするんです。

小石原 それって数年前からの、『吉田類の酒場放浪記』ブーム、大衆酒場ブームがちょっと関係してると思います。通ううちに顔見知りが増えて、ふらっと1人で行っても必ず誰か知り合いがいる、みたいな(笑)。それだけに社交性が求められるので、誰とでもすぐ打ち解けられるという人じゃないと難しいかも。特に濃い人が集まる店は(笑)。

編集部 個人的には西麻布「龍眉虎ノ尾 西麻布」みたいに料理人が変わるキッチンラボ系とか、違うジャンルの料理人同士がコラボするポップアップ系も盛り上がったという印象があります。情報が均一化しているから、他の情報が簡単に入ってくるわけじゃないですか。昔はフレンチの料理人はフレンチしかやっていなかったのが、他の情報も入ってくるから、違うジャンルの料理人とコラボしようかっていう話にもなるし。こういう状況なら今のフレンチのようにどんどんフュージョン化してくのも当たり前かなと思います。それに、いまの若い人は自分が学んできたことを隠さずに周囲に教えるのが当たり前ですよね。今の若い鮨職人たちは、みんなで集まって酢飯の炊き方を研究したりしている。こういうことってたぶん昔はなかったですよね。

小石原 ないですね。自分の店のやり方はまず他人には教えないというのが当たり前でしたけれど、いまは教えあうからすぐに情報が均一化、平準化している。客もそうで、そういう輪の中にいれば、すぐに情報が入ってくるんだけど、さっきのインスタの話みたいに、その中に入っていないといつまでたっても情報が入ってこないし、予約の取れない店に行けないようになっている。

キッチンラボ的な料理が楽しい「龍眉虎ノ尾」
毎月シェフが変わるのも楽しみ

 予約が取れない店も確実に増えていますね。今年1年に限らず、近年の傾向だと思います。人気店は1年、2年先まですぐに埋まっちゃうというのもあるし、そもそも取り方がわからない人気店も多いですよね。電話でもネットでも予約を受け付けないというお店もあるじゃないですか。その代表格は亀戸の人気イタリアン「メゼババ」かな。予約の枠を持っている人に連れて行ってもらう感じですからね。

編集部 それって、予約の主体が客からお店に移ったということでしょうね。

小石原 お店の人が来ていいよって言ってくれなきゃ行けないという(笑)。キャンセル情報を得るのもFacebookなどのSNSが当たり前になりましたよね。だからSNSや予約システムを使いこなせない人は人気店には永遠に行けないのでは……という時代になってきている。

 最近ではオリジナルの予約システムを導入する店も出始めてます。東麻布の鮨「東麻布 天本」は専用アプリをインストールして、3カ月ごとに予約を取るというやり方。客はクレジットカードを登録しないと入れないから、ドタキャンした場合でも、キャンセル料を取られるというシステムだからお店としてはありがたいんです。今後、超人気店はその方向に行くんでしょうね。お客様は神様ですというのはもう大昔の話(笑)。来年も店主たちは予約のシステムをどんどん変えてくるでしょうし、それに私達がどれだけついていけるかが問題ですよね。ここでも情報のキャッチアップ能力が試されるでしょう。大変な時代になっちゃいましたね(笑)。

開店初年度にミシュラン二つ星を取った「東麻布 天本」

編集部 来年の飲食界のトレンドはどうなるでしょうか?

小石原 やっぱり引き続きフレンチが盛り上がると思いますよ。銀座「レカン」の料理長だった高良康之さんがどんな店をオープンさせるかが最大の話題でしょうし、青山「ランタンポレル」、代官山「サンプリシテ」など、今年後半にオープンしたお店の評価が定まってくるでしょう。何かと話題になるかなと思います。

青山に出来た話題のフレンチ「ランタンポレル」

 あと、カレーは南インドブームが続いて、今年は千歳船橋「カルパシ」のような非常にマニアックな店が流行ったので、来年もまだ何か動きがありそうですよね。新店が出てきそう。料理人にも新しい、カレースターが出てきそうな予感がします。

 そのいっぽう、去年ものすごく流行った、ステーキ、焼肉、肉バルなどの肉系のお店は、ひと頃より落ち着きましたが、そのなかでは「炭火焼肉 なかはら」から独立した経堂の「炭火焼肉ふちおか」や麻布十番の「肉とスパイス JINDARI」、三宿「焼肉ケニヤ」とかが話題ですね。特に肉とスパイスの組み合わせは人気を集めています。

スパイス使いがうまい「肉とスパイスJINDARI」
料理はすべてスパイシー

(構成・山下久猛)

「もんじゃ さとう」の衝撃とソーシャル化するレストラン――2017年のグルメ界を総まくり #2

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