2018年注目の芸人はどんな芸風?
M‐1予選の出場コンビでいえば、「たくろう」という結成2年目のコンビが面白かった。ボケがおどおどした挙動不審なキャラクターなのだが、演技でこれをやっていたら凄いというレベルのリアルな挙動不審さなのだ。彼は本当にこれが素なのかなという疑問は当然生まれるのだが、その疑問を一旦振り切って漫才に浸り切るのがたまらない快感だ。
「バニラボックス」という4年目のコンビは、「ア段だけで会話する」という漫才をしていた。これは拙著『ことばおてだまジャグリング』の「リポグラム」の章で紹介している言葉遊びそのものだ。私はアイウエオ全ての段で同じことをやった。自分と似たことを考えている人を見つけると嬉しくなる。でも言葉遊びの漫才というのは一つ大きな弱点があって、別に必ずしもその人がやらなくてもいいのだ。日本語が使えれば誰がやっても同じなので個性が出しにくい。キャラ重視の時代には向かない。それでもなお、言葉遊びを軸にした漫才は尽きることがない。それは現代でもなお短歌を作る人がいなくならないのと似ている。
「四千頭身」の石橋遼大に注目したい
最後に、私が今最も注目している若手、「四千頭身」を紹介して締めたい。最近テレビ出演も増えているので、先の2組より知っている人も多いだろう。全員20歳のトリオ。男子学生の休み時間の雑談のようなグダグダした漫才が癖になる。ツッコミの後藤拓実の達者さは誰もが認めるところだろうが、個人的には右に立つ石橋遼大に注目したい。トリオにはよくいる、一見いてもいなくてもよさそうなポジションなのだが、漫才の間ずっと笑わないのが地味に偉いと思う。何考えてるかわからない方のボケ、という自分の立ち位置をよくわかっているよなあ。