「遺言」と付けた理由
11月14日は寂聴先生の得度記念日である。得度とは出家のこと。先生は51歳で出家したので、今年で46回目になる。
先生にはこの世に生まれた5月15日と、出家したこの日と、年に2度誕生日がある。私たちは先生に「46歳になったんですね! わか~い!」と言って、みんなで大きなケーキでお祝いした。
今年はその日に、新刊『寂聴 九十七歳の遺言』の発売記者会見も寂庵のお堂で開いた。たくさんの記者が集まってくださり、先生は次から次へと質問に答え、写真撮影に応じた。そして「死ぬまで書き続けたい。書き尽くしたとは、まだ思わない」と言った。そのすがすがしい姿を見て私は、先生の生命力の源はやはり、書くという自分の一番好きなことをしているからだと確信した。
毎月の法話での質疑応答でよく「なぜそんなにお元気なのですか? 元気の秘訣は?」と聞かれる。「よく食べて、飲んで、寝て、仕事しているから」と先生は答える。97歳現役で、五つも連載を抱える人はこの世に先生一人だけに違いない。
「しんどい」が口癖でも、締め切りに追われながらなんとかこなしていく。先生が「もう仕事したくない。しんどいのよ」と言うと、私は「ダメですよ。締め切りをとうに過ぎていますから寝てはいられません」と秘書らしく言うのだが、「まなほには、このしんどさが分からないよ」と返されると反論できない。
私がおばあさんになったらきっと一日中、ゆったりと過ごし、テレビにかじりつき、ほとんど昼寝しているだろう。果たして97歳まで生きられるだろうか。きっと無理だ。
「遺言」は、今まで先生が本のタイトルに使わずに残しておいた言葉である。それを今回の本に付けた。記者の方々が口をそろえて「タイトルに『遺言』とあって驚きました。付けた理由を教えていただけますか?」と聞くと、先生は答えた。
「売れるかと思って」
記者の方々のあぜんとした顔が忘れられない。(2019年11月)