4月9日の夜、私たちは大阪メトロ御堂筋線動物園前駅の2番出口から南に伸びる、飛田本通商店街を歩いていた。いちどはシャッター街になりかけた古い商店街に、2010年代末ごろからカラオケ居酒屋が大量に入居、しかも大部分(約100軒のうち約70軒)が中国系の店だと聞き、取材に訪れたのである。実際に見てみると、2年にわたるコロナ禍を経ても、各店舗は相変わらずの活況ぶりだった(前編参照)。
中国系カラオケ居酒屋の中心地は、飛田本通商店街と飛田本通南商店街、今池本通商店会がぶつかる三叉路の周辺だ。しかし、これよりすこし手前(動物園前駅側)、かつて南海電鉄の支線跡だったという山王みどり公園を通り過ぎて、メインの通りを外れて東に入った路地にも多少の店舗が点在している。
面白いので足を向けてみると、いちばん奥まった場所にある店から大勢の若者の歓声が聞こえ、やたらに盛り上がっている。外にいた女性店員が「イラッシャイマセ」と挨拶してきたが、見たところ中国人ではなさそうだ。出身を尋ねたところ「ベトナム」との返事。しかも、店内で盛り上がっている10人ほどの若者たちもみんなベトナム人だった──。
詳しい事情を先に書くと、この商店街では数年前から大量の中国系のカラオケ居酒屋が街の主役となって久しいのだが、最近はコロナ禍と在日外国人の国籍比率の変化を受けて、ベトナム系の店舗が徐々に版図を広げつつある。多国籍移民タウンと化した西成区の現在をご紹介したい。(全2回の2回目/前編から続く)
ネップモイ(ベトナム焼酎)ラッパ飲み宴会
「全員、近くの建設現場で働いてます」
通訳を介してそう答えてくれたのは、店内で盛り上がっていた25歳のベトナム人の男性だ。来日して4年半。「ハノイから300キロぐらい」離れた村の出身で、技能実習生として来日して1年間ほど働いていたが、低賃金に苦しみ逃亡した。
それから3年ほどボドイ(ベトナム人の不法滞在者や不法就労者のこと)として地下に潜り、やがて大阪に流れ着いたという。酒の勢いもあってかみんな人懐っこいので、話しかけると他の人もどんどん身の上を明かしてくれた。
「俺は逃亡後に太田で暮らしていたよ。アンタ、『群馬の兄貴』(過去記事参照)に会ったことがあるのか? すっげえな!」
別のゲイアン省出身の若者は、やはり最初は技能実習生だったが逃亡、ボドイが多く暮らす群馬県太田市を経て「おもしろいから」西成区に来たという。大阪市内のベトナム人は、2011年末の960人が2021年末には1万9126人と、10年で20倍増という驚異的な増加数を示しており、なかでも西成区と生野区で急増している。
ネップモイ(ベトナムの蒸留酒)をラッパ飲みしつつ、調子外れの音程でベトナム語カラオケを絶叫し続ける、西成区の建設現場で働くボドイ上がりの若者たち。彼らにとって、大阪の地はまさにフロンティアなのだ。