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 家の中も外観と同じように、どこも凜とした雰囲気に満ちていました。黒い正方形の石を敷きつめた床。余分な装飾のない無垢(むく)の木目と、建材の色をそのままにいかした壁と天井。その石の床は見た目にも涼しく、木の壁には張り合わされた板のまっすぐな線が並び、そうしたディテールが心地(ここち)よい緊張感を生み出して、まるで美術館の中にでもいるような厳(おごそ)かな空気感を醸(かも)し出していました。

「さあさあ、奥へどうぞ」とジュディに押されるようにして、ぼくらはジムを先頭に家の奥へと進みました。廊下の壁には作り付けの棚があり、ガラスのオブジェや鳥の巣、動物の骨の標本などが、ゆったりとした間隔で並べてありました。目線から少し低いくらいの高さに小さな窓がいくつも並んでいて、外を流れる小川と対岸の景色がよく見えました。

 歩いている途中でジムが振り返り、ぼくに尋ねました。

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「きみはカヤックに乗ってやってきたんだって?」

「はい。とてもいい旅でした」

「イリーから何日くらいかかった?」

「ガイドブックでは2泊3日と書いてありました。でも、急ぎたくなかったので、全部で、えーっと……8日です」

「それは長い旅だったね。カヤックはもう何年もやってるのかい?」

「いえ、今回が初めてでした。でも、キャンプの経験はたくさんあるので、大丈夫でした」

 カヤックに乗ったのが初めてだったことを知ると、ジムはぴたっと立ち止まり、トム(編注:大竹さんが宿泊していたロッジのマネージャー)と同じように目をみひらいて、驚いたような顔をしていました。しかしその直後ぼくが、「ハクトウワシの巣をみつけたんです」と告げたとたん、ジムの表情が急に変わりました。さっきまでの穏やかなまなざしが消え、青い瞳の眼光が少し鋭くなったような気がしたのです。

「ほんとうかい? それはどこ?」

 ジムはその場に立ったまま、ぼくの顔をまじまじと見つめながら尋ねてきました。ハクトウワシという言葉が、自然写真家としての本能を刺激してしまったのでしょうか。続けて「ルーンの巣もみつけました」と言うと、さらに興奮した様子で、「地図を持ってくるから、もっと詳(くわ)しく聞かせて」と言って、肩を少し前のめりにして部屋の奥へと足早に歩いていきました。