生放送の「さとうきび畑」は「とても緊張するもの」
――なんだか壮大な感じです。
森山 人生で起きたいろいろなシーンを思い浮かべてね。そうしたら「あのときはジントニック飲んでたな」とか、「ちょうどこの頃ウォッカトニックにハマってた」とか、思い出に全部お酒がくっついてくるのね。結局出来上がったのは、飲んだお酒の名前を羅列した「人生はカクテルレシピ」というどうしようもない歌でしたが(笑)、ハナレグミこと永積タカシさんにこの曲を聴いてもらって、楽しい形になりました。
――4月19日放送のNHK『うたコン』では生放送で「さとうきび畑」を披露されましたね。
森山 ウクライナ危機によって、世界が揺れ動いています。昔はこの歌が歌われなくてもすむような場所を目指していたはずなのに、我々と同じような一般市民の方々が戦火にさらされていて。これを止めること、そのすべがないということがまた切ないですね。
――テレビの前でじっと聴き入りました。生放送というのは特別なものなんでしょうか。
森山 今でもやっぱり、とても緊張するものですね。『うたコン』は久しぶりの生放送でトップバッターでしたし、その上冒頭で思い入れのある『カムカムエヴリバディ』の映像が流れてくるしで……。
――そんな風には聴こえなかったのですが、「今日はいつもと調子が違うな」というのは、歌っている最中からわかるものですか。
森山 わかります。たとえば「さとうきび畑」なら、「ざわわ」の「ざ」、出だしからわかりますね。そういうときは、歌いながら頭や体、歌を支えるものを自分なりに修正して、「せめて最後だけはうまく着地しろ~!」みたいな気持ちで、いつも考えて歌っています。
「音域を半音上げるのも高い壁。まだまだですね」
――内心、そんな葛藤があるんですね。「着地」というとフィギュアスケートのようです。
森山 本当にその通りで。何千回と歌った曲でもコントロールが効かないことがあるんです。まだまだですね。
――デビュー55周年を迎えられ、半世紀以上のキャリアを持つ森山さんでも難しいことがある、というのも驚きです。
森山 音域を半音上げるのも高い壁です。中学から60年間、歌の指導をしていただいている坂上昌子先生いわく、「良子ちゃん、この年になったらテクニックよ」と。引き出しをどれくらい持てるかがこれからの大きなテーマだと教えていただいています。先生は今86歳です。「私も良子ちゃんが生徒さんだから、うかうかしてられないの」って前向きに言ってくださいます。
――アスリートのようなストイックさを感じます。レッスンは週に何回など、決まっているんでしょうか。
森山 毎週何曜日に、とは決まってないんです。大きいコンサートの前に伺ったり、クラシックのコンサートで歌う前、高い声の修正のために先生に確認していただいたりとか。
――加齢とともに変わっていく「声」をテクニックでコントロールしていくんですね。
森山 声に関しては、歳をとるごとに悪化していくことは否めません。結局、声帯は筋肉ですからね。若いときはいくら深酒しようがタバコを吸おうが声は目一杯出るから、挑戦したり工夫する必要もありませんでした。そういう意味では今やっと、挑戦できる年齢になったんだと思います。