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「この瞬間を待ち望んでいたのか?」

 その砂川さんは、いまの事態に対して無力感と苛立ちを感じたと記している。

〈無力感を感じるか? 感じる。この感じは、でも初めてではない〉

〈苛立ちは、対岸にいる者として、評論家として、一生活者としてそういう事態を眺めている、又はどこか興奮気味に伝えているという事実によってより強くなる〉

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〈気が付くと所帯を持つ、都内のしがない兼業作家がウクライナ大使館へ、義勇兵の参加要領について確認するメールを送っている。

 この瞬間を待ち望んでいたのか? 分からない〉

 そこから作家は、ロシアのウクライナ侵攻で明らかになった、「これまで置き去りにされてきたこと」について、思索を深めていく。

ウクライナ軍兵士 © Cozzoli/ROPI via ZUMA Press

〈「これからの時代は無国籍企業が主流になり、人・モノ・カネの動きはボーダレス、シームレスになり、いつでもどこでも誰とでも働けるような人材が生き残る」というような煽り文句が、つぶやきというにはあまりにも大きな声となって覆いかぶさる〉

 しかし今、おもにネット空間で飛び交っていた言説とは違う現実を目の当たりにしている。

〈私たちはパンデミックやウクライナ戦争勃発以来、国家の号令一つでいとも簡単に封鎖されてしまう国境や空港や港湾を目にした〉

〈国家は、国際政治においては依然として最強のプレイヤーだった〉

 そこから新芥川賞作家は国家、自由、イデオロギーについて考察していく。

 5月10日(火)発売の「文藝春秋」6月号と、「文藝春秋 電子版」には、その思索の到達点が示されている。

文藝春秋

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ウクライナ義勇兵を考えた私