「建前としては『六大学リーグでの優勝』を目指します。ただし、現実としてはリーグ戦での『まずは1勝』を目指してきました。では、勝つためにはどうするのか。それを追究するのが東大野球部です。そして、学生にとっては神宮球場という舞台に立つことも立派な目標になります」
そう話すのは、2013年から2019年まで7年にわたって東京大学野球部の監督を務めた浜田一志氏だ。(全2回の1回目)
東大野球部には「一回戦ボーイの下」がある
浜田監督時代の東大野球部は100人を超える大所帯。特にスポーツ推薦のない東大では必然的に選手の技量レベルに大きなバラつきが出る。さぞかし指導はたいへんだったに違いない。
「たしかに選手の技量差はありますから、その意味ではたいへんです。ただ、慶応や立教は部員が200人を超えた時期もありましたから。東大に入ってくる学生は生活面での規律は守れますから、そのあたりは楽ですよ」
とはいえやはり気になるのは、部員の技術だ。「浪人生もいるだろう」とは想像していたが、浜田氏からは驚くべき回答が返ってきた。
「高校野球のレイヤーを分解していきましょう。まず、トップの層は佐々木朗希投手のように“ドライチ”で指名される選手です。そして次に高校生のなかでのエリートクラスであるU―18日本代表がきて、次に甲子園球児が来ます。ここまでは全国レベルですね。そして、都道府県大会でも準々決勝以上に勝ち進み、甲子園まで“あと一歩”の選手たちがいて、それに続いていわゆる一回戦ボーイの層がある。ところが、東大野球部にはもうひとつ層があるんです」
一回戦ボーイの下? そんな層があるのだろうか。
「驚かれるかもしれませんが、高校野球未経験で入部する選手もいるんです。軟式野球しかやったことがなかったり、ハンドボール、テニス……それに、完全な帰宅部もひとりいましたね。みんな受験勉強漬けでしたから、最初の1か月は『リハビリ期間』です。最初は学生も張り切っているじゃないですか。そうすると、かなりの確率で肉離れをしてしまう。毎年、注意しても何人か出ます。ようやく試合に向けた練習が出来るようになるのは夏あたりからでしょうか」
そんな状態だから、他の六大学でプレーする新人と試合をしても最初は「冗談ではなく、50対0くらいの差はあります」と浜田氏は言う。
ところが、4年間でその差がどんどん縮まっていくという。